水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-33- 軽く出る

2018年06月17日 00時00分00秒 | #小説

 一歩、外へ出れば、世の中の姿はどう変化しているか分からない。買おう! と出たまではよかったが、最近まであった店が消えて空き地になっていたり、建て変わっていたりすれぱ、面食らって困ることになる。まあ、これに限ったことではないが、こういう事態を想定して軽く出る・・という発想と行動こそが大切だ。何がなんでもっ! と力(りき)んで、その目的達成だけを考えていれば、ガックリ! と気落ちしてしまうことになる。
 立鼻(たちばな)は、ずっと考えていた買物に出かけた。しかし、彼は以前の失敗を経験していたから、二の轍(てつ)を踏むことだけは避(さ)けたいと思い、重く出ず、軽く出た。要は、まあ、店が開いていたら、買い物ついでに…くらいの気分である。囲碁の世界だと、こういう気分の劫(コウ)を花見劫と言い、成功すればいいが不成功でも、まあいいさ…的な打ち手になるという。それは兎(と)も角(かく)として、立鼻は家を軽く出ることにしたのである。
 目的のドラッグストアは残念ながら存在しなかった。
『あれっ? 確か2年ほど前はあったが…』
 そう思いながら立鼻は辺(あた)りの店をキョロキョロと見回した。だがやはり目的の店はなく、空き地になっていた。
「まあ、いいか…」
 立鼻はそう軽く呟(つぶや)くと、隣(となり)のスーパーへ軽く歩(ほ)を進めた。こういうこともあろうかと…的に買い物袋は持って出ていたから、なんの不都合もなくスンナリと買い物を終えることが出来た。
『フフフ…まあ、世の中とはこんなものさ…』
 立鼻は人生を達観したようなゆとり気分で偉(えら)そうに北叟笑(ほくそえ)んだ。
 軽く出ると、ゆとりも生まれるようだ。^^

                                完


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