暮らしの中で物事の記憶は否応(いやおう)なく必要となる。
とある老人ホームでね二人の老人がのんびりと庭園を散歩している。
「いい、お天気ですなぁ~!」
「…あの、どちらさんでした?」
「ははは…軽石(かるいし)さん、嫌ですなぁ、私ですよっ!」
「…はて、お見かけしない方ですが? どちらさんで?」
「ははは…、またまたまたっ! ご冗談をっ! 昨日(きのう)もここで、お出会いしたじゃありませんかっ! 重石(おもし)ですよっ、重石っ!」
「重石? はて…? 私は軽石ですが…。なんか他人とも思えません」
「そら、そうですっ! 私とあなたは同室ですから…」
「同室? 誰と誰がっ?」
「私とあなた…」
「ははは…ご冗談をっ! 私はこの老人ホームの管理人ですよっ!」
「二人とも5年前までは確かに…。でも、退職後、ここでお世話になられてるじゃないですかっ!」
「誰がっ!?」
「あなたがっ!?」
「誰と!?」
「私とっ!」
「…そうなんですかっ?」
「そうなんですよっ!」
そのとき、老人ホームの館長が現れた。
「またですかっ!! ほんとに困りものですなっ! お二人のお家(うち)は前でしょ!!」
二人の記憶は完全に飛んでいた。記憶は大事である。^^
完