水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-17- 閃(ひらめ)き

2018年06月01日 00時00分00秒 | #小説

 私達が日々、過ごしている暮らしの中で、なんの前触(まえぶ)れもなく、ふとした拍子(ひょうし)に閃(ひらめ)きが生じることがある。それが今やっていることと全(まった)く関係がない場合、思わず、さてどうしたものか? と躊躇(ちゅうちょ)させ、手を止まらせることになる。今やっていることと閃きの内容とが頭の中でどちらを優先させるか? と選択を迫(せま)る訳だ。
「よしっ! 先にするかっ!!」
 とある食品生産工場である。場長の蛸原(たこはら)も、閃きが生じたことで迷いに迷っていた。蛸原は他の従業員にそう指示を出した。
「分かりましたっ!」
 一人の副長は指示に従った。
「場長、それでは間に合わないと存じますがっ!」
 もう一人の副長は異議を唱(とな)えた。
「場長が、そうするっ! 言われたんだから、それでいいだろうがっ!」
「なにっ!」
 諍(いさか)いが始まった。以前から二人の副長は仲が悪く、衝突することが多かったのである。
「まあ! 二人ともっ! ともかく、やってみようじゃないか…」
 蛸原が止めに入った。
「分かりました…」
 異議を唱えた副長も渋々(しぶしぶ)、頷(うなず)いた。
 結果はどうだったか? 私としては知らせたくないのだが、ここは、読者のために知らせねばならないだろう。その結果は惨憺(さんたん)たるものだった。ことのほか時を要し、関ヶ原の戦いには間に合わなかったのである。言っておくが、壬申の乱の方ではなく、西暦1600年の例の戦いである。場長、蛸原が先代に叱責(しっせき)を受けたか? までは定かではない。^^

                                完


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