とある真夏の日のことである。鮭(さ)を獲(と)る訳でもなく、熊崎が川で水浴びをして帰宅すると、こんな番組がテレビから聞こえてきた。
『某国(ぼうこく)から打ち上げられたミサイルは高い弾道を描き、我が国の近海面に落下した模様ですが…』
『ええ、物凄(ものすご)い高さまで上昇して落下しましたから、当然、重力加速度により凄い落下スピードとなり、最新型のミサイル防衛網でも打ち落とせなかったでしょうねぇ~』
熊崎は、フンッ! 野次馬気取りで気楽なこと言ってらっ! と野次馬的に画面を観聞きしながら思った。
『なんとか、ならないんでしょうか?』
『…あなたは、どう思われます?』
『いや、私には…』
番組の進行役を務めるアナウンサーは思わず口を噤(つぐ)んだ。
熊崎は内心で思った。馬っ鹿だなっ! 打ちあげられた直後か、遅くても最高高度到達点までに打ち落とせるシステムを開発すりゃいいだけのことじゃねぇ~か…と。
確かに熊崎の単純な考えは一理あった。というのも上昇している間のスピードは、重力により、そう早くはならないからである。最高高度に到達するまでに感知して迎撃できる最高精度のシステム開発を秘密裏(ひみつり)に完成させればいい訳である。実弾射撃訓練の費用、その他の不必要な防衛予算を秘密開発へ回せばいいのさ…と偉(えら)そうに熊崎が思いながら家の外へ出たとき、空から小鳥の糞(ふん)が道へビチャッ! と落ちてきた。
「やはり、重力加速度は相当のもんだな…」
熊崎は重力加速度を実感し、はっきりと口にした。
完