水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-36- 薄味(うすあじ)

2018年06月20日 00時00分00秒 | #小説

 日々、暮らす中で、主婦の方々に言えることだが、料理で薄味(うすあじ)は欠かせない。無論、このことは当然、主夫の方々にも言えることなのだが…。^^
 とある中年夫婦の食事どきの会話である。
「おいっ! コレ、少し濃(こ)いんじゃないかっ!!」
「嫌(いや)なら食べないでよっ! 私が食べるからっ!!」
「そういう意味じゃないっ。もう少し、薄味の方が俺の好みだってことさ…」
 主人は俄(にわ)かの敵の反撃に、撤退(てったい)を余儀(よぎ)なくされた。
「私の好みなんだから、いいじゃないっ!!」
 主婦は、なおも猛攻を続ける。
「…」
 防戦一方となった主人は、ついに押し黙った。
 薄味は、沈黙を呼ぶようである。加えて、ひとつ、これは聞いた話だが、薄味は濃い味より中年以降の健康に、いいらしい。まあ、どうでもいい話だ。^^

                                完


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暮らしのユーモア短編集-35- 制(せい)する

2018年06月19日 00時00分00秒 | #小説

 制(せい)する・・という言葉がある。この言葉は相手の行動を制圧(せいあつ)して優位な立場に自(みずから)らが立つことを意味する。ただ戦闘によって相手を征服(せいふく)する征するとは意味が異(こと)なる。外的な主張はなく、要は、自己満足を気分で感じるだけ・・というのが制するなのである。
 とある老人会で語り合う二人の老人の会話である。
「最近、耳が遠くなりましてな。息子が補聴器を買ってくれました」
「ほう! それはようございました」
「それが耳障(みみざわ)りで、余りよくないんですわ」
「耳障り? 聴こえないんですか?」
「いや、そうじゃないんです…」
「? と、言いますと?」
「付け心地(ごこち)が今ひとつ…」
「なるほど…。それはお困りですな」
「はいっ! 態々(わざわざ)、買ってくれた息子の手前、付けない訳にもいかず…」
「息子さんの手前だけでも、ということでどうです?」
「はあ…」
「あっ! 私、用を思い出しましたので、これでっ!」
 不意に立った老人は、尿意を制することが出来ず、足早(あしばや)にトイレへと消えた。
 暮らしの中の諸事では、制する・・ことが多く、厄介(やっかい)である。^^

                                完


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暮らしのユーモア短編集-34- うるさい

2018年06月18日 00時00分00秒 | #小説

 日々、暮らしていると、うるさい…と思うことがよくある。この、うるさい…と思う気分は、五月蝿(うるさ)いと煩(うるさ)いの二(ふた)通りに区別される。前者は言うまでもなく、騒音めいて喧(やかま)しい…と思う場合で、後者は物事をするのが億劫(おっくう)になる気分である。
 とある家庭の一場面である。勉強部屋で小学校4年になった姉が予習らしきことをしている。その隣(とな)りの居間では、ピッカピカの1年生になった弟が煎餅(せんべい)をバリバリッ! と齧(かじ)りながら畳(たたみ)の上に横柄(おうへい)に寝転(ねころ)び、楽しみにしていた戦隊もののテレビ番組を観ている。
「五月蝿いわねっ!! ちょっと、音、小さくしてよっ!!」
「チェッ! …」
 小さく舌打ちして、弟は不承不承(ふしょうぶしょう)、リモコンの音声を下げる。すっかり集中力を削(そ)がれた姉は、空腹(くうふく)を覚(おぼ)え、予習を続けることが煩くなる。
「ママ、夕飯、まだっ!!」
 言わなくてもいいのに、姉はキッチンへ聞こえるよう、大声を出す。
「五月蝿いわねっ!! もう、出来るわよっ!!」
 母親はヒステリックな声をキッチンから勉強部屋へ返す。姉の声に慌(あわ)てたものだから、母親は炒(いた)めものの惣菜(そうざい)を焦(こ)がしてしまう。一端(いったん)は作り直そう…と思ったものの、母親は煩い…と気分が変わり、携帯で店屋物(てんやもの)を注文する。
「ただ今っ!」
 そこへ、職場の上司に散々(さんざん)、嫌味(いやみ)を言われ、五月蝿いっ! と聞いていた父親が帰宅する。
 人々は、うるさい・・に向かい合って暮らしているのだ。^^

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暮らしのユーモア短編集-33- 軽く出る

2018年06月17日 00時00分00秒 | #小説

 一歩、外へ出れば、世の中の姿はどう変化しているか分からない。買おう! と出たまではよかったが、最近まであった店が消えて空き地になっていたり、建て変わっていたりすれぱ、面食らって困ることになる。まあ、これに限ったことではないが、こういう事態を想定して軽く出る・・という発想と行動こそが大切だ。何がなんでもっ! と力(りき)んで、その目的達成だけを考えていれば、ガックリ! と気落ちしてしまうことになる。
 立鼻(たちばな)は、ずっと考えていた買物に出かけた。しかし、彼は以前の失敗を経験していたから、二の轍(てつ)を踏むことだけは避(さ)けたいと思い、重く出ず、軽く出た。要は、まあ、店が開いていたら、買い物ついでに…くらいの気分である。囲碁の世界だと、こういう気分の劫(コウ)を花見劫と言い、成功すればいいが不成功でも、まあいいさ…的な打ち手になるという。それは兎(と)も角(かく)として、立鼻は家を軽く出ることにしたのである。
 目的のドラッグストアは残念ながら存在しなかった。
『あれっ? 確か2年ほど前はあったが…』
 そう思いながら立鼻は辺(あた)りの店をキョロキョロと見回した。だがやはり目的の店はなく、空き地になっていた。
「まあ、いいか…」
 立鼻はそう軽く呟(つぶや)くと、隣(となり)のスーパーへ軽く歩(ほ)を進めた。こういうこともあろうかと…的に買い物袋は持って出ていたから、なんの不都合もなくスンナリと買い物を終えることが出来た。
『フフフ…まあ、世の中とはこんなものさ…』
 立鼻は人生を達観したようなゆとり気分で偉(えら)そうに北叟笑(ほくそえ)んだ。
 軽く出ると、ゆとりも生まれるようだ。^^

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暮らしのユーモア短編集-32- 勝つということ

2018年06月16日 00時00分00秒 | #小説

 私達が生きる社会では、否応(いやおう)なしに勝ち負けの結果を求められる。表立って勝ち負け・・とは言わないことでも、結果を残せたか否かにより、自ずと表面化するのだから怖(こわ)い。通知簿の成績が2などというのは、明らかに負けのように見える。だがっ! だがっ! である。果たしてそれが本人にとって負けなのかといえば、必ずしも、そう! とは断言(だんげん)できないのだ。それを言い換えれば、必ずしも勝つということではない・・と言える。それほど、勝つということは何をもってそう言えるのかの定義が難しい・・ということに他ならない。多大な犠牲を払って戦争に負けた結果、修羅から解放され、平和な国に暮らせる・・という我が国の現実もあるのだ。勝つということは負けることが許されず、完全に負けるまで戦うことを余儀なくされることを意味し、勝つということでは決してない・・と逆に言える訳だ。人に勝とうとした瞬間、その人は、すでに自(みずか)らに負けている・・と言える。
 新しく結成されたとある町の将棋同好会の一場面である。将棋愛好家の老人達が対峙(たいじ)して将棋を指している。
「いやいやいや…優勝までは昼抜きですっ!」
「そうですかぁ~? それじゃ、私はこれで…。もう負けましたから…」
「ああ、どうぞどうぞっ!」
「では、お先に…」
 一人の老人は早々と負けたことにより、美味(おい)しい肝吸(きもす)い付きの鰻重(うなじゅう)を賞味(しょうみ)し、勝ち続ける老人は、空腹の腹を抱えながら将棋盤に向き合う・・という、なんとも皮肉な時の進行を辿(たど)ることになった。
 勝つということは、実に判断が微妙(びみょう)~~なのである。^^

                                完


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暮らしのユーモア短編集-31- 巻き幅(はば)

2018年06月15日 00時00分00秒 | #小説

 とある大学院の経済学研究所に月代(つきしろ)という風変わりな教授がいた。彼は商品学を教授する一介(いっかい)の教授だったが、いつの頃からか妙な発想にとり憑(つ)かれ、今では自宅へも帰らず研究所に入り浸(びた)っては寝泊(ねとま)りするまでになっていた。彼が研究する対象とはトイレット・ぺーパーである。彼は過去数十年に渡るトイレット・ぺーパーの材質、形状、価格を密(ひそ)かにデータ化し、その数値変化のシミュレーションを比較予測することで国力[経済力]の衰微を解き明かそうとしていたのである。
「うむ…。5年前は半径45mmだったものが、今現在は35mmか…。ということはだっ! 単純に考えれば、この5年で35/45=7/9・・ということは…」
 呟(つぶや)きながら、月代は右横に置いた電卓のキーを押し始めた。するとその答えは、たちまち液晶文字となって浮かび上がった。0.7777…である。
「77.8%か…。ということはだっ! 5年前より22%以上も減衰していることになる。これはっ、ゆゆしきことだっ! むろん、もう少し詳しく解析(かいせき)せにゃならんがっ…」
 月代は国の未来を憂(うれ)い、そう呟(つぶや)きながら思わず身震(みぶる)いした。
「これは、捨て置けんぞっ! さっそく論文化し、学会で発表だっ!」
 月代がソワソワし出したそのとき、現れたのが助手の日下(くさか)である。
「どうかしたんですかっ、先生! バタバタされて…」
「ああ、日下君か…。私は、こうはしちゃいられんのだっ! 午後の講義は君が代講してくれっ!」
「ええっ! 僕がですかっ!」
 やってきた思わぬチャンスに、日下は思わず北叟笑(ほくそえ)んだ。そして、加えた。
「そうそう! 先生、研究室のトイレット・ぺーパー、切れてたんで、立て替えて買っときましたっ!」
 日下は片手を月代の前へ突き出し、代金を催促(さいそく)した。
「それそれ! その巻き幅(はば)なんだよっ、君っ!!」
「えっ?」
 日下は意味が分らず、訝(いぶか)しげに月代を見た。
 国力の衰微(すいび)は分りやすいところに潜(ひそ)んでいるようだ。^^

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暮らしのユーモア短編集-30- 弱い者いじめ

2018年06月14日 00時00分00秒 | #小説

 春の大型連休が終わり、巷(ちまた)では税金の納付(のうふ)が本格化する、人々にとっては惨(みじ)めなシーズンを迎(むか)えていた。
 コンビニで納税を終えた鰯雲(いわしぐも)は季節に合わないような浮かぬ顔、正確に言えば組織的で高度な国家的振り込め詐欺(さぎ)に振り込んだような顔で店を出た。内心には、一年前、軽自動車税が¥7,200から¥12,900に大幅アップされた怒りが渦巻いていた。そして今年も、鰯雲としては大金の¥12,900を振り込み、コンビニを出たのである。そこでバッタリと遭遇(そうぐう)したのが近所の桃花(ももか)だ。桃花は季節に合った陽気な顔で鰯雲に声をかけた。
「どうされました、鰯雲さん? 浮かぬ顔で?」
「税金ですよ、税金っ!」
「ああ、税金ですか…。それが何か?」
「何かもカニかもありませんよっ!!」
 カニは美味(うま)いなぁ…と思いながらも、鰯雲の怒りは燃え盛(さか)る炎(ほのお)のように益々(ますます)、増幅(ぞうふく)されていった。
「…どういうことですっ?」
「弱い者いじめの¥5,700アップですよっ!!」
「はあ…。何がっ?」
「軽自動車税ですよっ!! 累進課税(るいしんかぜい)の税率、なんとかならんのですかねぇ~!」
「…どういうことですっ?」
 桃花は、ふたたび、どういうことですっ? を繰り返した。
「せめて、私ら年間所得が¥200万以下の者は税率を低くして欲しいってことです。¥500万以上の徴収(ちょうしゅう)出来る所帯、あるでしょ!?」
「ええまあ、あるでしょうが、私に言われても…」
「でしょ!!?」
「はあ…」
「なんとかなりませんかっ!!?」
「私に言われても…」
 桃花は、ふたたび、私に言われても…を繰り返した。
 弱い者いじめは続いていくようだ。

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暮らしのユーモア短編集-29- 細々(ほそぼそ)と

2018年06月13日 00時00分00秒 | #小説

 大きくて強く、向かうところ敵なし・・というのが、世の中を生きる私達にとって安心でき、目指すところだろう。押しただけで倒れそうなひ弱な組織はどうしても煙(けむ)たがられる。むろん、健康面においても同様で、頑健(がんけん)な身体であるに越したことはない・・と一般では思われるところだ。ところが、実はそうでもないのである。細々(ほそぼそ)とした身体でありながら長生きしたり、頑健な身体でポックリと早死にする・・といった事例が事実あるのだ。それは組織でも同じで、細々と商(あきな)う老舗(しにせ)が続き、えっ! あの企業が倒産っ! と、耳を疑(うたが)いたくなる大企業が消え去るといった事実が厳然(げんぜん)と存在するのである。
「元久保さん、どうされましたっ!? そんなに、おやつれになって」
「ああ、これは伊井さん! いや、私は至って体調がいいんですよっ!」
「そうなんですか?」
「ええ、見た目とは逆で申し訳ないんですが…」
「ははは…お謝(あやま)りになることはないと思いますがっ。それにしても、細々とされた身体ですが…」
「ええ、太るとダメな体質なんです、私」
「そういや、小遅川(こおそがわ)さん、お悪いとか…」
「ええ~っ!! それは初耳です。先だってお会いしたときは、よく太られて、美味(おい)しそう、…いや、失礼! 健康そうにお見かけしたんですがっ」
「分からないもんですねぇ~」
「はい、確かに…」
 二人は沈黙して頷(うなず)いた。
 細々と・・は、安全の信号[シグナル]なのかも知れない。

                                完


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暮らしのユーモア短編集-28- 努力

2018年06月12日 00時00分00秒 | #小説

 とある高校の進路指導室である。担当の教師が一人の生徒と対峙(たいじ)して座り、データらしきファイルを見ながら相談に乗っている。
「…まあ、この偏差値からすればだっ! すればだよ、君。飽くまでも、すればっ! の話だ。するんじゃないよっ! すればだっ!」
「はいっ!」
「うん! すれば、ソノ大学というのは、どうなんだろうねぇ~」
「ダメでしょうか?」
「まあ、努力次第ということもあるからダメとは言わんが。ははは…マグレ、奇跡ってこともあるにはあるしなっ!」
「あるんですかっ?」
「ああ、あるにはあるが、マグレ、奇跡が起こる確率が極(きわ)めて低いっ!… 確率は数3だったな、確か…。まあ、関係はないがっ。そこへいくと、コノ大学だと、ほぼ100%大丈夫なんだがな…」
 生徒は大学もさりながら、この教師、大丈夫かっ! と瞬間、思った。
「分かりました。…考えてみます。どうも有難うございました」
 生徒にとって全然、あり難くなかったが、一応、そう言うと指導室を出た。生徒は努力してソノ大学を受けてみよう…と思った。なんとなく合格しそうな気がした。

                                完


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暮らしのユーモア短編集-27- 最大効果

2018年06月11日 00時00分00秒 | #小説

 人間社会では、どのような場合にも言えることだが、最大効果を得る・・というのが、物事を実施する場合の必要不可欠の鉄則(てっそく)となる。確かに、多大の犠牲(ぎせい)を払った挙句(あげく)、ぅぅぅ…と涙するような突破、完成という事態もあるが、はっきり言って、犠牲は最小限にとどめねばならない。
 春とはいえ、五月半ばの日中ともなると、さすがに暑くなってくるから、早朝、夕暮れどきの作業の方が、汗の出が少なくて済む。
 整枝を終えた切り枝が畑に置かれている。昨日の切り枝だから、まだ生々しい。農川は深く考えもせず、草焼機で焼却を始めた。ところがである。11時を回った頃で、すでに辺りの気温は25℃近くにもなろうとしていた。深い考えもなかったから当然、長袖(ながそで)である。最初の数分はよかったが、たちまち身体に汗が出始めた。やがてその汗は、下着を濡らすまでになってきた。このままではビッショリした汗で濡れ鼠(ねずみ)になることは必定だった。農川は体内の全軍に撤退命令を下した。家の中へ入り、とりあえず着替えをした農川は、ふと、巡った。この焼却の最大効果を得るには、1.として、数日、そのまま置いておいて天日(てんび)干(ぼ)しにし、十分に乾燥させる。2.として、早朝や夕方の冷んやりした頃に焼却する・・といった最大効果を得る方法が浮かんだ。これだっ! これを先に思いつかなければ、司令官としては失格だっ! とジェネラル[アメリカの将官]にでもなった気分で偉(えら)そうに思った。汗は掻くわっ、着替えは出るわっ、疲れるわっ・・で農川の体は戦闘で多くの犠牲を出していた。サッパリの農川はジェネラルは無理だな…と思った。ただ、それに気づいたのだから、見込みはあるにはあるのだが…。^^
 このように最大効果を得るには、まず犠牲を最小限に食い止める・・ということが、何よりも必要となる。

 ※ 最近の日本は暮らしにくくなり、野焼きは出来ないそうですから、ご注意をっ! ^^

                                完


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