水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

歴史大河ドラマ風・脚色シナリオ<動じぬ家康> <3>

2023年01月12日 00時00分00秒 | #小説

22.岡崎城内・広忠の寝所
   就寝中の寝所で突如、家臣達により取り押さえられ、切腹させられる広忠。抗う広忠の無念に満ちた顔。
   N「その翌月、岡崎城内で異変が起きた。家臣達による広忠の誅殺である。その事実を人質に出された駿府の竹千代が知ろうはずがなかった」

23.駿府・今川館・広縁(漆黒の闇)[1.のあと]
   F.I 
   元康の前へ参集する松平家の家臣団。次第に数を増し、息巻く家臣団。
   テロップ 永禄三年
   N「そして、時は流れた。今川義元の下知の下、その命を受けた元康が暗闇に放った火矢を合図に、松平家恩顧の家臣達がぞくぞくと広縁へ終結を始めた」

24.駿府城・今川館・元康差配の部屋・夜
   部屋内に聞こえる家臣団[軍勢]の小さな喧噪。平八郎の理髪を終える石川数正。加冠の儀を行う元康。灯火に映る、若武者、平八郎の凛々しい姿。
   N「出陣前の夜、平八郎は元服した」
  元康「これでそちは、紛れもなく本多平八郎忠勝じゃ!」
  平八郎「うれしきこと、この上もござりませぬ。この後(のち)は元康様をお守りいたし、ただ勝つことのみを心に刻みまする」
   自身の烏帽子姿を盥(たらい)の水に映す平八郎。母のお昌が重い鎧兜(よろいかぶと)をかついで部屋へ入ってくる。元康の顔がほころぶ。
  元康「おう! 母御か…。これが平八郎の晴れ姿じゃ」
  お昌「若殿が烏帽子(えぼし)親になって下さるとは、ほんに冥加(みょうが)なこと。この上は本多家伝来の鎧を着せてやりとうござりまする」
  元康「噂の黒鎧じゃな。わしも見たい!」
  お昌「されば、とくとご覧あれ!」
   得意げに鎧櫃(よろいびつ)の太紐を解き、鎧兜を意外な小力で取り出すお昌。平八郎に黒糸縅(くろいとおど)しの鎧を平八郎に装着させるお昌。平八郎の身にピタリと合う鎧。装着が済み、尻をポンと叩いて元康の前へ押し出すお昌。
  お昌「若殿、これが本多宗家に伝わる三種の盾具(たてぐ)でございます」
  元康「おう! 見事なリ、本多の士魂(さむらいだましい)!」
  お昌「なれど、三種が揃(そろ)わねば盾の力なしとか。夫の忠高も瑪瑙(めのう)の大数珠(おおじゅず)をつけ忘れ、戦(いくさ)にて落命いたしました」
  元康「さようであったか…。どうじゃ、平八郎。黒鎧の着心地は?」
  平八郎「思いのほか、軽うござる。これなら、いくらでも飛び回れまする…」
   屈託のない笑みを浮かべ、板の間で跳ねる平八郎。
  元康「その意気やよし! 戦場(いくさば)では、すばやく動けてこそ手柄を得られようというもの!」
  平八郎「ははっ! しかと心にとどめまする!」

25.駿府城・今川館の外
   火矢を合図に集結する元康の家臣団の人馬の群れ。

26.駿府城・今川館・元康差配の部屋・夜
  元康「我が郎党の動きの迅(はや)きことよ…」
   元康の傍に仕える石川数正の涙声。
  数正「殿っ! 皆、この日を待ち望んでおったのです」
  元康「長かったのう。この出陣で何かが変わろう…」
   珍しく、きっぱりとした口調の元康。
   N「今川義元の上洛により松平家の一党は初めて勢揃いを許されたのである」
  元康「小荷駄奉行は酒井雅楽助(うたのすけ)に任せる。織田の横槍には目などくれず、大高へ兵糧を運び入れよ。数正、鳥居彦右衛門、松平正親は丸根砦に三方から攻め入れ。ただし、西口の坂道は開け、織田軍敗走の逃げ道とせよ。よいかっ! 無理攻めして将兵を失うでないぞっ!」
  元康の周りを守る重臣達「ははっ!」
  元康「平八郎、先祖伝来の黒鎧を締めなおせ。明日、進撃するっ!」
  平八郎「ははっ! 殿のお傍に従いまするっ!」
  元康「太刀をもてっ!」
   元康の愛刀、正宗を元康に手渡す平八郎。広縁に立った元康、太刀を朱鞘から引き抜くと叢雲から漏れる一筋の月光に青ざめた刀身をかざし見る。

 ※ 続編は後日に…。お楽しみにっ!^^
   [原作 加野厚志 本多平八郎忠勝]


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OFF<2>

2023年01月11日 00時00分00秒 | #小説

臨 時 休 業


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歴史大河ドラマ風・脚色シナリオ<動じぬ家康> <2>

2023年01月11日 00時00分00秒 | #小説

 第一回 暗闇

11.岡崎城内
   城中の大広間。一段上の畳に座す広忠。一段下の板間に座し、広忠に対峙する織田の軍使。
  軍使「織田に臣従なされねば、因(と)らえた竹千代君はお命を落とされましょう。如何(いかが)なさるっ!」
  広忠「お断り申す。決して織田には従わぬ。されど、今川にも組みせぬ所存じゃ!」
  軍使「殿に、そう申してよろしいのだな?」
  広忠「御意(ぎょい)のままに…。幼くとも竹千代とて三河武士。死に際は心得ており申そう」
   頷くと機嫌悪げに素早く立ち上がって去る軍使。

12.尾張・古渡城・遠景
   テロップ 尾張・古渡城 

13.尾張・古渡城内
   城中の大広間。不機嫌に片手で顎を撫でながら軍使の話を聞く織田信秀。
  信秀「さようか…。だが、千貫文も惜しいでのう…。殺(あや)めようと思えば、いつでも殺められるか…。分かった! それまでは寺で飼おうっ!」
  軍使「ははっ!」

14.織田家菩提寺・万松寺(ばんしょうじ)前
   織田家臣の監視の下、寺に入る六歳の竹千代。
   N「寄る辺ない竹千代は織田家菩提寺・万松寺へ送られ、軟禁されたのである」

15.鍋之助(のちの忠勝)の家の中
   うらぶれた佇まいの家の中。お昌が伏す布団の横で賑やかな笑顔で笑う赤子の鍋之助。
   テロップ 天文十七年
   N「この頃、希代の武将、本多平八郎忠勝が岡崎城下で生まれた。幼名を鍋之助という」

16.織田・今川の国境の城
   乱戦の織田と岡崎衆。やがて、岡崎衆に捕縛される織田信広。
   テロップ 天文十八年
   N「その翌年、織田・今川の国境で小競り合いが起きた。乱戦の中、岡崎衆は城将織田信広を捕らえたのである。信広は信長の兄に当たる」

17.岡崎城の門前
   護送され城内へと入る竹千代。竹千代を出迎え、感涙に咽(むせ)ぶ重臣や家臣達。
   N「やがて、人質交換が成立し、竹千代と織田信広はそれぞれの故国へ護送された」

18.岡崎城下
   岡崎城を見遣り、歓喜する岡崎の町衆。その中の二人。
  町衆1「若がもどられただっ!」
  町衆2「ぅぅぅ…よかったのう!」
  町衆1「泣くやつがあっかっ! ぅぅぅ…」
  町衆2「おまんもっ!」
   二人、笑いながら泣く。

19.鍋之助の家の中   
   うらぶれた佇まいの家の中。母のお昌が乳飲み子の鍋之助を抱いている。
  お昌「於大さまのつらさ、竹千代さまの哀しさ。父(てて)なし子のそなたなど安穏な身じゃ。一蓮托生の死ぬ気で尽くしなされ。若さまとお前は同じ運命(さだめ)の上にあるのですよ」
   言われる意味が分からないまま、お昌にあやされる乳飲み子の鍋之助。

20.岡崎城内
   城中の大広間。一段上の畳に座す竹千代。左右に分かれ、一段下の板間に座す重臣達。同じく、一段下の板間の中央に座し、竹千代に対峙する今川の使者。
   N「竹千代が岡崎へもどると、日をおかず、今川義元から使者が岡崎へ送られた」  
  使者「殿こそ竹千代君の後見なるぞ。無事にもどられたからには、二年前の約定を果たされよ。元服されるまで今川家が預かりおく故(ゆえ)、その間、三河の松平領は我らが差配いたす」
   歯を噛みしめ、口惜しげに使者の言葉を聞く岡崎の重臣達。

21.岡崎城下の街道
   駿河へと旅立つ竹千代の行列。それを遠くから見遣る町衆。その中にお昌と幼い鍋之助の姿。思わず涙するお昌。
  お昌「これほど辛酸を舐められた御子があろうか……」
   F.O


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OFF<1>

2023年01月10日 00時00分00秒 | #小説

臨 時 休 業


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歴史大河ドラマ風・脚色シナリオ<動じぬ家康><1>

2023年01月10日 00時00分00秒 | #小説

 第一回 暗闇

1.駿府・今川館の広縁(漆黒の闇)
  F.I
   葉桜の下で慄然(りつぜん)と佇む平八郎。上空に黒々とひしめく叢雲(むらくも)。
   テロップ 永禄三年
   N「広大な今川館の桜花は散り絶え、若葉の季節を迎えようとしていた」
   突如、一本の火矢が赤い尾を引いて闇夜へ飛ぶ。火矢は、やがて長大な放物線を描き遥か彼方へと消える。平八郎の背後の広縁に立つ元康。それに気づく平八郎。
  元康「平八郎、闇に何を見たぞ?」
  平八郎「駿府の空を覆う暗雲の向こうに微(かす)かな明かりが…」
  元康「積年の思いを込め、遠い三河へ向かって放ったのじゃ…」
  平八郎「さようでござりましたか。元康さまの射られし火矢は、必ずや岡崎の城に届きましょうぞ」
  元康「それにしても永いのう。人質として、はや十数年…」
   居間の燭台の灯りに照らされ、弓を小脇に抱えながら、ほろ苦く笑う元康の姿。軽く元康に会釈し、頷く平八郎。
  元康「どうじゃ、平八郎。元服せぬか? わしが烏帽子(えぼし)親になってやろう」
  平八郎「…若が?」
  元康「忠豊、忠高…お前で三代、よう仕えてくれた。元服し、わが馬の轡(くつわ)を取れ!」
   元康の言を聞き、気負う平八郎。
  平八郎「さすれば、初(うい)陣!」
   小さく笑い、頷く元康。
  元康「義元さまより下知を受けた。鷲津、丸根の砦を攻め取り、孤立の大高城へ兵糧を運び入れよとのお達しじゃ。生きては戻れぬ小荷駄隊ぞ!」
  平八郎「死地なればこそ、甲斐もあろうというもの。ご同行、仕(つかまつ)りまする!」
  元康「おう! 三河魂、存分に見せつけようぞ!」
  平八郎「ははぁ~!」
   桜の若葉越しに二人の笑う姿が居間の燭台に生える。
   タイトルバック
   S.E[テーマ曲] タイトル「〇 」サブタイトル「第一回 暗闇」
   キャスト、スタッフなど

2.岡崎城内  
   寝所の布団に伏す笑顔の於大の方。その隣に伏す赤子の竹千代。機嫌よく竹千代を見遣り喜ぶ広忠。    
   テロップ 天文十一年
   N「時は二十年ばかり前に遡る。三河の岡崎城内で松平広忠の嫡男が誕生した。幼名は竹千代。のちの徳川家康である」
  広忠「よくぞ男(おのこ)を生んだ! 赤子ながら、この黒く聡(さと)き大目玉。いずれ、天下に名を馳せようぞ!」
   横たわったまま微笑む於大の方。  

3.刈谷城内
   床板の上に敷かれた布団に伏す水野忠政の骸(むくろ)。傍らに失念して座す信元。
   N「刈谷城の水野忠政が病にてこの世を去った。忠政は於大の父である」
  信元「…」
   父の遺骸を見遣る信元。思うところある決意の面相で城中の暗闇を見つめる。

4.岡崎城内
   場内の一室。一段上の畳に座す広忠。一段下の板間で対峙して座す於大の方。
   N「その後まもなく、忠政の跡を継いだ信元が松平広忠を見限り織田方へ寝返った」
  広忠「そちにとっては異父兄とは申せ、信元こそ憎き奴! もはや仇敵の妹を妻とは呼べぬ。竹千代を置いて岡崎城から出てゆくのじゃ」
   広忠の惨(むご)い沙汰に、よよと泣き崩れる於大の方。

5.同 城外
   三歳の竹千代と別れ、悲しげに城外を去る於大の方。足袋も履かず、肌着一枚の於大の方。
   N「戦国の世、異父兄が裏切れば、その妹は斬られる運命にあった。それが戦国の掟(おきて)である以上、広忠は、あえて離別を言い渡し、於大を放逐したのである」

6.同 天守
   天守より城を出る於大の行列を悲しげに見下ろす広忠。
  広忠「このままでは、岡崎城は内部より瓦解する…」
   N「追いつめられた広忠は駿府の今川義元に縋(すが)った」

7.駿府城内
   場内の大広間。今川義元に謁見する広忠。中央上段の畳に座す公家装束の義元。下段に座す広忠。
  義元「お申し越しの儀、よろしく承(うけたまわ)った。小癪な織田ばらに三河の地は一歩も踏ませぬであろう。その代わり、と申してはなんじゃが…」
   意味ありげな面妖(めんよう)な嗤(わら)いで広忠を見下ろす義元。
  広忠「…なんでござろう?」
   訝(いぶか)しげに義元を窺(うかが)う広忠。
  義元「御事(おこと)の嫡男、竹千代君を駿府にて遊ばされよ…」
  広忠「義元殿の御心(みこころ)のままに…」
   N「三河の安泰と引き換えに、広忠は手中の玉を手放したのである。時に、竹千代六歳」
  
8.岡崎城・城外
   城門を出る五十人ほどのお供揃えの行列。輿(こし)に乗せられた六歳の竹千代。
   テロップ 天文十六年

9.三河・田原の街道筋
   竹千代を腰に乗せたお供揃えの行列。ひれ伏して行列を出迎える戸田康光。不意に立ち上がる戸田康光。重臣の一人、平岩親吾に語りかける戸田康光。
  康光「これよりの陸路は無謀でござる。おそらくは、竹千代君の御命を狙う織田方や野武(のぶせり)が待ち伏せておりましょう。ここはひとまず、我が手の戦船(いくさぶね)にて、海路を駿河へ向かわれるがよろしかろう」
  親吾「有難し! 戸田殿のご厚情、まこと身に沁みまする…」
   感涙する平岩親吾。

10.海路・戦船(いくさぶね)の中
   舟の向かう方向が違うことに気づく平岩親吾。戸田康光を探す平岩親吾。戸田康光を見つける平岩親吾。
   N「戦船は駿府へは向かわず、一路、尾張を目ざしていた」
  親吾「針路が違う! 駿河は東ぞっ!」
  康光「たわけがっ! 血のつながらぬ孫など、どこが可愛いものかっ! ここは援軍なき海じゃ! 刃向かう者は斬り捨てるっ!」
   恫喝するだけでなく、竹千代の面前で数人の重臣を斬り殺す康光。遺体を船べりから海へ蹴り落とす康光。
   N「戸田康光は永楽銭千貫文で竹千代を織田方へ売り渡したのである」


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めげないユーモア短編集 (100)最終回

2023年01月09日 00時00分00秒 | #小説

 最終回というのは、実に侘(わび)しい。というのは、次回の楽しみが消えるからである。毎回、楽しみにしていた気分がなくなり、気持がめげる訳だ。めげないためには他の番組を探す他はない。バラエティは、どのような番組でもそれなりに楽しいが、ドラマとなれば観たい番組がそうある訳ではない。映画的な名作を一年間通して、いや、複数年に渡ってON AIRしたっていい訳だが、どういう訳か三ヶ月、あるいは半年ほどで終わってしまうのは観る者をして嘆(なげ)かせる。4K、8Kもいいが、地上波で中高年の観たい番組が少ない。私もその一人である。^^
 とあるフツゥ~家庭である。夫婦二人が、どうでもいいようなドラマを、どうでもいい気分で観ている。
「コレっ! 終わるらしいわっ!」
「ああ、らしい…。それにしても、今一、盛り上がらんなっ! この田舎に都会派ドラマは合わんし、第一、よく分からんっ!」
「…よねっ!」
「なんか、観たいドラマが少なくなったと思わんか?」
「思う…。そういや、斜め向こうの大工さん、お店をやめられたようよ…」
「ドラマと、どういう関係があるんだっ!?」
「フフフ…最終回っ!」
「なるほど…」
「でしょ!?」
「最終回な…。最終回は実に侘しい」
「ええ…」
 最終回は様々な状況で侘しいのである。私達は、それでもめげないで生きていく他はない訳だ。
 この短編集も、このお話で、とうとう最終回となってしまった。また次のカキモノを探さねばならず、実に侘しい。それでも、めげないで探そう!^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (99)先行投資

2023年01月08日 00時00分00秒 | #小説

 必要が生じ、そのときになって投資するのでは間に合わない。もう遅い…と溜め息を吐(つ)きながら愚痴る他はないのである。^^ では、どうすればいいか? と考えれば、世の動きをつぶさに察知し、先行投資する洞察力が必要となるようである。政治家諸氏には厳(きび)しいことを言うようで誠に申し訳ないが、そのときになって検査や予防ワクチンに財源を捻出(ねんしゅつ)するようでは遅きに失する・・ということに他ならない。政治にも経営戦略の要が求められる訳である。^^
 二人の男が牛乳を片手にアンパンを食べながら、とある公園のベンチで話している。
「お互い、派遣(はけん)では、この程度だなっ!」
「ああ…。俺は来年の三月までだ…。蝶よ花よと煽(おだ)てられた20年前が懐かしいよ…。昼は毎日、食堂で美味(うま)いもの食ってたからなぁ~」
「あの頃にさ、会社も先行投資してりゃ先細らず、俺達がリストラされることもなかったんだがなっ!」
「嘆(なげ)いたって仕方がないっ! めげないで働くしかないだろっ!」
「だなっ! 先々に先行投資して、蓄(たくわ)えるかっ!」
 二人は食べ終えると、また仕事の営業先へと向かった。
 めげないで先行投資しないと、先が(わび)しくなるようだ。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (98)負ける

2023年01月07日 00時00分00秒 | #小説

 勝った場合には起こらない気分が、負けるとめげる。対戦を前にめげないためには、心構えとしてどうすればいいか? だが、こればっかりは、申し訳ないがどうしようもない。対戦は、どちらが一方が勝つか負けるかだから、めげるか、めげないか・・という結果が、対戦前に分かっているからである。分からないのは、どちらが? という点だけなのだ。対戦する以上は、双方ともプラスマイナス半々の%[パーセンテージ]がある訳だ。
 とある競馬場である。一度も勝ったことがない馬、オールハザクラが次のレースで走ろうと、パドックでゆったりと回り歩いている。その姿を客二人が見ながら話をしている。
「今日も負けるんでしょうな…」
「ああ、見る限りでは他の馬を圧倒してるんですがな…」
「なぜ負けるのか…いや、勝てんのかが分かりません…」
「ですな…」
「負けるのが分かっているのに乗る騎手の心境はどうなんでしょう?」
「そりゃまあ、今日も負けるんだろうな…くらいの気分じゃないんでしょうか」
「馬の方は、どうなんでしょうな…」
「皆さん、お速い…くらいじゃ」
「なるほどっ! めげませんか…」
「負けるとめげるのは、人だけですよ、人っ!」
「なるほど…」
 負けるとめげるのは人だけで、他の生物はめげない。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (97)選挙

2023年01月06日 00時00分00秒 | #小説

 何度か落選し、疑心暗鬼になったとしても、次の選挙にめげないで立候補するそのバイタリティーとは、いったい何なのか? 議員さんには失礼な話になるが、その辺りの心象風景を探るのは実に面白い。結論から言えば、要は、立候補した以上は誰でも当選したい訳である。^^ 何度落ちても、めげずに立候補する所以(ゆえん)は、そんな深層心理なのではないだろうか。何度も立候補し、惜しい次点票で落選を重ねれば、自然と石橋を叩(たた)いて…という行動になる。どうして自分はいつも次点でダメなのか…と慎重になる訳だ。選挙で立候するからには、当選するための周到な準備というものが必要になってくる。所謂(いわゆる)根回しというヤツだ。めげないで根気よく根回しするということだ。^^ そうしておいて、ある程度、当選の見込みが出てくれば立候補する・・というのが当選の筋道である。見込みがなければ選挙に出なければいいだけの話だ。この順序を違(たが)えれば、また次点か…となるから注意が必要である。^^
 とある選挙風景である。
 どこにでもいそうな、ただの中年と若者が話をしている。どうも、何らかの先輩後輩の間柄に思える。
「いよいよ選挙ですねっ!」
「だなっ! 昨夜のテレビでは、与党支持層が30%後半、支持政党なしが45%以上だったか…」
「で、野党はっ!?」
「この国に野党は今、ないぞっ! 与党以外の全(すべ)てが全て、政策集団化している…」
「確かに…。政権担当能力を有し、尚且(なおか)つ国民の負託に応え得る組織…それが完熟デモクラシーの党だったからなっ!」
「完熟といえば、頂戴したメロン、完熟でしたよっ! 有り難うございましたっ!」
「出荷出来ないやつでよかったら、いくらでもあるから、この次、また持ってきてやるっ!」
「脱サラされて、よかったですかっ!?」
「まあな…。値崩れで当たり外れがあるから、選挙と似てるっ! お前は安定収入だからいいなっ!」
「収入は安定してますが、いつもビクビクで気分が不安定です」
「ははは…どちらにしろ、気分はいつも選挙中かっ!」
「ですねっ!」
 選挙は当選するまで気分が安定せず、出馬する以上、その気分にめげないバイタリティーが求められる訳である。^^

                   完


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めげないユーモア短編集 (96)偶然

2023年01月05日 00時00分00秒 | #小説

 物事には偶然そうなる・・というようなことが起こる。誰もがそうしようとは思っていないのに偶然、そうなる訳だ。人々はこの現象を人為的ではないから運と、ひと言(こと)で片づけてしまう。偶然起こることがよければ、それはそれで喜ばしいが、悪いことが偶然起これば、人々はそれにめげないで続ける必要が生じる。当然、めげて棒をバシッ! と折る人も出てこよう。^^ 今日はそんな偶然をテーマにした面白くも嬉(うれ)しくもないお話だ。^^
 とある中央省庁である。
「君っ!! どうなんだっ!? 先週言ってた予算要求書付表は出来てるのかねっ!?」
 局長が制服組の若い課長を呼んだ。
「局長! それがコロナでコロコロなんですよっ!」
「…コロコロ!? どういうことだねっ?」
「だから、コロコロなんですっ! 回転に歯止めが利(き)かないというか…」
「議会が始まる前に、なんとかしてくれっ! 大臣に突(つつ)かれて困ってるんだよ、実は…」
「あの鶏顔(にわとり)顔の大臣ですかっ?」
「そうそう、鶏に、さっ!」
「でも、もう突かれなくて、いいんじゃないんですかっ!」
「…どうしてっ?」
「聞くところによれば、総裁選で国会は開かれないようですよっ!」
「おお、そうだった! タイミングよく、偶然、総裁選だったなっ!」
「ですね…」
「コロナ予算で、めげそうになっとったんだが、偶然、めげないで済むか…」
「世の中は上手(うま)く出来てますよねっ!」
「ああ、確かに…。それよかコロナは終息出来んのかねっ!? もう、一年半、過ぎたよっ!?」
「私に言われても…」
「それはまあ、そうだが…。偶然、なんらかの理由で終息するってことはっ!?」
「さあ…ダメっぽいんじゃないんですかっ?」
「偶然、そうはいかんか…」
「はあ…」
 偶然は期待して起こるものではないから、私達は、めげないで頑張る他はないようである。^^

                   完


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