日本にとって、国を守り、独立を守る意志が問われるもう一方の隣人が中国である。
中国とは「歴史戦」を戦っている。この戦いは銃弾や砲弾が実際に飛び交うものではない。国際社会を舞台にした宣伝、情報の戦いである。
安倍首相の登場まで日本は敗退を重ねてきた。先に述べたように、敗退の自覚すらないまま、彼らの望むものを提供してきた。
日本の名誉を貶(おとし)めながら、日本からの資金導入によって中国はGDP世界第2位の経済大国となり、いまや米国の軍事力を脅(おびや)かすほどの軍事大国にもなった。人口13億人の市場規模に世界は幻惑され、中国はそれを見越して、経済力と軍事力を背景にした威圧をもって国際秩序の主宰者になろうとしている。
アメリカがトランプ大統領になってどう中国に対していくか不分明だが(その後、貿易戦争に突入した)、日本は自らの価値観と意志を持って毅然(きぜん)と存在を示していくことが必要である。
リーマン・ショック以降の中国経済の膨張を支えたのは米ドルである。中国を“その気”にさせたのはアメリカだともいえる。
米連邦準備制度理事会(FRB)が2014年までの6年間にドルの発行量を4倍とし、3兆ドルを追加発行したのを中国人民銀行が相当額のドルを国有商業銀行などから買い上げ、人民元資金を提供してきた。
商業銀行は資金を地方政府が主導する不動産開発や国有企業などの設備投資に向けて融資し、こうした資金に支えられて中国のGDPは2桁台で伸び、2010年には日本のGDPを抜いた。
不動産市場が過熱するなかで工業生産能力は2014年までの7年間で粗鋼約2倍、自動車2.3倍、セメント1.9倍と膨張し、世界経済における怪物となった。
それが2004年に不動産バブルが崩壊すると、各地方ではゴーストタウンが出現、鉄鋼などの設備の5割以上が過剰となった。中国国内で需要が急減したことで石油や鉄鉱石など国際商品市況は暴落し、世界にデフレ不況をもたらした。
中国経済は青息吐息(あおいきといき)のはずだが、生産過剰で需要がない製鉄所など、本来なら整理されるべき企業体が倒産を免れている。地方の共産党官僚が、党中央の目標である経済成長率を達成するために誤魔化しを行っているためである。
経済の実態としては“張り子の虎”のようなもので、製造しているものは日本をはじめとする先進国のコピーにすぎない。共産党官僚などの特権階級が地方からの農民工(出稼ぎ労働者)を低賃金で酷使し、低価格を売りに世界に輸出攻勢をかけた結果の数字である。国内の不動産バブルは、本来存在しない需要を無理に生み出したものでしかない。
中国当局の統計数字は当てにならないが、国際決済銀行(BIS)の統計によれば、2015年までの3年間で中国の企業、政府、家計の債務(負債)合計は約920兆円増加したという。経済の実態が健全で透明性があれば借金が増えても信用不安は起きないが、中国はその条件を満たしていない。共産党の強権が綱渡りを可能にしているだけと見てよい。
中国がいくらアジアインフラ投資銀行(AIIB)をつくって金融市場を主導しようが、また国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨の刻印が人民元に押されようと、中国には経済の基本である「信用」がない。
AIIBや人民元が世界経済において責任ある役目を果たせるか、彼らが本当に果たす気ならば、金融市場の開放や外国為替の変動相場制移行など市場の自由化と透明化が欠かせない。IMFはそれをSDR入りの条件としたはずだが、習近平政権はそれを無視した。世界は急速な中国経済の膨張に幻惑され「無法通貨」にステイタスを与えてしまった。
中国の経済発展は国内労働者の低賃金に支えられていただけで、市場としても人口規模以外は中流以下でしかないから、質の経済を論じる基礎がない。だから中国に進出した外国企業は、より賃金の安い東南アジアの国々に生産拠点を移しつつある。
中国の国有企業でさえ、それらの地域に逃げはじめた。IMFの統計によれば中国の不良債権は2016年3月末の時点でGDPの2割を超え、さらに増加している。それでいて人民元をSDRに加えたのだから、国際機関がいかに国際社会のことを真剣に考えていないかがわかる。
---owari---
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