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学力・体力日本一 ~ 福井県の子育てに学ぶ(下)

2021年06月07日 | 日本
自制心を身につけさせる家庭の躾が、学力・体力日本一の基盤。

(塾関係者に与えたショック)
平成19(2007)年に始まった「全国学力テスト」で、福井県と秋田県が3年も続けてトップクラスを維持した事に、大手進学塾の栄光ゼミナール広報室室長、横田保美(やすみ)さんは、こう驚きを語った。
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・・・一番ショックだったのは、福井県、秋田県が上位を占めたということです。東京では、小学生の5人に1人以上が受験をして中学校を選ぶ時代。塾に通うのは当たり前になっています。

だから、東京をはじめとする関東圏がトップクラスに入ると思っていた。それなのに、通塾率の低い福井と秋田が上位を独占。そういう意味では大きく期待を裏切られた結果でした。

受験だとか知識を身につけさせる教育が先進的だと思っていたけれど、実は見落としていたことがいっぱいあったのでは・・・と思い知らされました。
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塾に通う率の低い福井県と秋田県が学力トップでは、塾関係者は立場がない。塾で「見落としていたこと」とは、何なのだろう。

(福井県は宿題が日本一多い)
学力テストと同時に、生徒の学習状況や先生の指導に関してもアンケート調査が行われ、興味深い事実が判明した。宿題を出している率で見ると、福井県は小学校の国語、算数、中学校の国語、算数と、すべての科目で全国1位だった。西川福井県知事は、こう語っている。
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福井は、言い過ぎかもしれないが宿題が日本一多い。先生が宿題を出し、家庭では親御さんがしっかりみている。地道な流れが根っこにある。
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福井県では子供の勉強を塾に任せるのではなく、先生が宿題を出し、親がそれを子供にしっかりやらせている。

小中学生だけでなく、大学進学状況でも福井県は全国のトップレベルにいる。高校卒業生の5人の1人が国公立大学に合格しており、さらに高校卒業者数に占める東大合格者の率では全国7位。関西圏のそれも大都市圏から離れた県としては、立派な成績だ。

しかし、宿題だけで、ほんとうに全国トップレベルの学力を達成しているのだろうか?

(「部活して家に帰って、予習と宿題をするのが精いっぱい」)
その実態を、福井県立武生高校出身の東大生たちが、座談会でこう語り合っている。
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渡辺さん:大学に進学して驚いたんだけど、有名私立校出身の子とか予備校に通っていた東大生の話によると、合格するために毎日10時間くらい勉強していたんだって。自分はそんなに勉強時間は長くなかったなあって。

久野くん:1、2年の頃は、毎日2時間くらいじゃなかった? 3年の秋頃までは受験のための勉強はしていなかった気がする。

石原くん:基本的に、学校の予習と宿題以外はやったことがなかったな。塾にも通わなかったし、周りにも塾に行っている子は少なくて、成績が上位の子ほど行ってなかった気がする。
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授業は生徒が予習している、という前提で進められるので、英語、古文、漢文は、語彙(ごい)を調べて訳していかないと、授業について行けないそうだ。

予習と宿題と、すなわち家庭での自己学習が中心で、それらを2時間ほどすることで、これらの生徒は東大に合格したという。塾で詰め込み教育をされるのとは、まったく違う。

(家事する母親の傍らで宿題)
福井県では、小学校、中学校の時から、宿題を重視している。小中学生の親144人に対するアンケート調査があるが、それによると、平日に宿題をする時間が30分以上という回答が、8割近くを占めている。

興味深いのは、「宿題を習慣づけるために、心がけていることはありますか?」という設問に対して、多かった回答は:

-宿題が終わるまで遊びに行かせない 27人
-宿題が終わったかどうかチェックする 21人
-目の届く範囲で宿題をさせる 19人

と、子供にきちんと宿題をさせることに、親が積極的に関与している様子が窺(うかが)われる。

宿題をする場所についても、リビングルームが64%と、目の届く範囲で宿題をさせている家庭が多い。ただし、親がつきっきりで見ているというのではなく、そばで家事をしたりしながら、それとなく、様子を見守っているようだ。

小学校の国語での宿題の定番は「音読」。国語の教科書を親の前で読み、声の大きさ、感情の込め方などを親が採点する。お母さんが、夕飯を作ったり、洗濯物をたたみながら、BGMがわりに子供の音読を聞く。

お母さんが外で働いている場合は、福井県では3世代住居が珍しくないので、お祖母さんが代わりに聞いてくれるケースが多い。

こうして小学生の頃から、学校が宿題を毎日出し、それを親が家できちんとさせる、という形で、自分で勉強する、という習慣をつけさせている。

(「やることをやってから遊ぶ」習慣づけ)
小学生に宿題をどう習慣づけるかに関して、お母さんたちの座談会では、次のような発言が出ている。
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水野さん:小さな頃から「やることをやってから遊ぶ」ということを習慣づけしてきました。「宿題をあとまわしにしたら自分が困るよ」と言って。だから帰宅したらすぐに宿題をして、それから着替えて遊びに行くというパターンになっている。

大久保さん:うちも宿題をしてから遊ばせるようにしていますね。宿題は最低限のやるべきことなので。

山下さん:うちの子は何度か宿題をさぼって、たまりにたまった分を終わらせるために、夜なかなか寝られないことがあった。それからは、「宿題ってあとまわしにすると眠くなっちゃうよね。だから絶対に先にするんだ」って言っている。失敗をしているから、自分でやるようになった。

そうすると友達も一緒に宿題をするようになって、うちに来る子はみんな宿題している。学習塾みたい。
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遊びに行きたい欲求を自分で抑えて、まずは勉強に向かう。その過程で、自制心が養われていく。

(部活と勉強の両立)
こうした過程で、福井県の子供たちは時間をムダにせずに勉強をする習慣を身につけていく。前述の東大生たちは、4人とも受験期になっても部活を続けていた。毎日、7限授業が終わったあと、4時過ぎから、6時か7時まで部活をする。それから帰宅し、夕飯を食べ、休憩をとり、ようやく予習や宿題にかかる。
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紺谷さん:私も部活をやっていたし、通学に1時間かかったから、勉強時間は家が近い人よりも絶対少ないと自覚していた。だから、通学時の電車とか休み時間にも勉強をして、ロスをなくそうとしていたな。

渡辺さん:今、思ったんだけど、小学生のとき、クラスのほとんどがスポーツ少年団に参加していて、放課後は毎日のように練習に行っていたんだよね。

それでもみんな宿題はちゃんとやってきていて、小さな頃から運動をしながら、限られた時間の中で宿題をする習慣があったからこそ、部活と勉強を両立できる力が身についていたのかもしれない。
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こうしてスポーツ少年団や部活をしながらも、予習や宿題をきちんとやっていることが、学力と体力の両面で日本一になった秘訣だろう。

(「なんで1日早くやらないんだろう」)
このように自制心をつけて東大に入学した学生から見ると、他の東大生の行き当たりばったりが目につく。
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紺谷さん:そういえば、提出前になって課題を見せてほしいと言う子がいて驚いた。東大生にもこういう子はいるんだなあって。出された課題は、自分でやらないと意味がないのに。

渡辺さん:午後5時が締め切りのレポートなのに、お昼休みに「今からやらなくちゃ」って言っている子がいた。自分は、課題が出たら先にやってしまうから「明日はレポート提出だから徹夜だ」とか聞くと、なんで1日早くやらないんだろうって思ってしまう。先にやっておけば、生活のペースも崩れなくて楽なのにーって。
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塾で詰め込み勉強をさせられ東大に入っても、自制心は身についていない。そういう生徒が、塾という外的制約がなくなった途端に、レポートを写したり、徹夜でやったりするようになるのだろう。これでは、大学の勉強も身につかないし、社会に出てからも、役立つ人間になるのは難しい。

(「稚心を去る」)
福井と言えば、幕末の志士・橋本左内の出身地である。福井藩主の松平春嶽(慶永)に側近として登用され、面会した西郷隆盛をして「一世の偉人なり」と言わしめた人物である。

わずか26歳にして「安政の大獄」で刑死したが、15歳の時に記した『啓発録』は、自らの生き方の戒めを5箇条にまとめたものだ。その第一条が「稚心(ちしん)を去る」である。

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稚心とは、をさな(幼な)心と云ふ事にて、俗にいふわらびしき(子どもっぽい)ことなり
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たとえば、勉強を放り出して遊びたがったり、むやみにお菓子を欲しがったり、母親に甘えたりすることである。レポートを出さなければならない、と分かっているのに、締め切り間際まで先送りし、挙げ句の果ては友人に写させてくれ、と頼むのも「稚心」である。

「遊びは宿題を終えてから」という習慣づけは、この「稚心を去る」に通じている。

(「士気」ある人を育てる)
左内は稚心の項を、こう締めくくっている。
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稚心を除かぬ時は、士気振はぬものにて、いつまでも腰抜武士になり候ものにて候、故に余稚心を去るを以て士の道に入る始と存候なり

(稚心を除かない時は、士気が振はないので、いつまでも腰抜武士になってしまう。それゆえに私は「稚心を去る」をもって、武士の道に入る始めと考えている)
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「士気」とは、現代で言えば、世のため人のために尽くすひとかどの人物になろう、という志と言えよう。「稚心」を去って、はじめて「士気」が振ふ。自立した大人として、世のため人のためを志すことができる。

前号では校門の一礼や清掃・給食前の正座・黙想は、自分を見つめる機会になるとして、1人の生徒の感想を紹介した。
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校門の前に立って頭を下げると、今までやってきたことがまずかった、しっかりしなくてはいけない、と思う自分に気づきました。
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一礼や正座黙想で自分の行動を見つめることで、自身の内に潜む「稚心」に気がつく。これらも「稚心を去る」ための手段だったのだ。

こうして「稚心」を去った生徒が、毎日2時間も勉強すれば、「稚心」を持ったまま10時間も詰め込み勉強をさせられた生徒以上の学力を持てることを福井県の実績は示している。同時に部活を続けることで、日本一の体力も養っている。

こうした教育を受けて、子供たちが士気を振るい、自分の人生を主体的に歩んでいけるようになれば、その幸福は計り知れない。

 同時に、こういう士気ある国民がどれだけいるかで、国家の栄枯盛衰も決まるだろう。

 (文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
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