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学力・体力日本一 ~ 福井県の子育てに学ぶ(上)

2021年06月06日 | 日本
登下校時に校舎に向かって一礼、食事前、清掃前は正座して黙想。生徒たちは自分を見つめながら育っていく。

(学力・体力日本一の福井県)
全国学力テスト、体力テストの両方で、福井県がトップクラスにつけている。学力テスト(文部科学省が行っている「全国学力・学習状況テスト」)では平成19年から3年連続で、中学の部(3年生)では1位、小学の部(6年生)は秋田県に次いで2位である。

また全国体力テスト(「全国体力・運動能力・運動習慣調査」)でも、平成22(2010)年には小学生(5年生)、中学生(2年生)の男女とも1位となった。

学力、体力ともに全国最下位近くに低迷した大阪府の橋下徹知事は、こう嘆いた。
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大阪は学力が低かった。体育も低かったら何が残るのか。ふつうは勉強ができなかったら、体育ができる。どっちかなのに。どうすんねん。
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「どうすんねん」の問いに答えるために、福井県がどのように学力も体力も伸ばしているのかを探ってみよう。

(校舎に向かって深々とお辞儀をする中学生たち)
福井の子育てはどこが違うのか、いくつかの学校を訪問し、多くの教育関係者や母親たちのインタビューで探った労作がある。

その口絵の写真からして、驚かされる。まず校門の前で、校舎に向かって深々とお辞儀をする中学生たち。キャプション(説明文)にはこうある。

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登下校の際は、校門で学校に向かって一礼します。自転車に乗っている子も下りて、礼。約30年続く伝統です。
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給食を前にして、合掌する子供たち。
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ある中学校では「無言給食」を実施しています。食事中はひと言もしゃべらず食べることに専念。一体どんな力を養っているのでしょうか?
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お盆に載せられた給食の写真では:
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地元産業の越前漆器を食器として使い、地域で育てられた野菜が献立にたくさん並ぶ。学校給食にも子どもの心を育むヒミツがありました。
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廊下で、ぞうきんを前に正座して、黙想する子供たち。
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休み時間はにぎやかなのに、掃除の音楽が流れた途端、廊下に正座して目をつくります。静と動の切り替えがとても上手です。
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福井県には曹洞宗大本山の永平寺があるが、まさにこれは禅寺での修行風景を思わせる。ここには伝統に根ざした人作りの世界がありそうだ。

(校門での一礼の始まり)
すべての伝統と同様、福井県のこうした教育も、多くの人々の長年にわたる努力の積み重ねの結果である。

たとえば、校門での一礼の伝統を始めたのは、30年ほど前に永平寺町の上志比(かみしひ)中学校に校長として赴任してきた川鰭(かわばた)定幸さんだ。定年後、浄土真宗で得度し、80歳を超える今も、矍鑠(かくしゃく)として、福井市の超勝寺(ちょうしょうじ)で布教使をされている。川鰭さんは当時をこう回想する。

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当時、全国の公立中学校では暴力事件、"校内暴力"が多発していました。・・・上志比中学校も学ランに剃りこみという格好の生徒たちが、窓ガラスを割るなどの校舎破壊を繰り返していた。そこに赴任したんです。
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そこで、河鰭さんは入学式の第一声で、子供たちにこう呼びかけた。「明日から、登下校のときは校門の前で礼をしたらどうだろうか」と。

河鰭さんは幼少の頃に両親と死に別れたことから、浄土真宗に触れる機会が多かった。浄土真宗の宗祖・親鸞上人の教えは「自己発見」。「礼」の教えを通して生徒たちに自己を見つめなおしてもらおうと思った、という。

(自分が自分に出会う礼)
河鰭さんが考えた「礼」とは、他者への挨拶や敬意の表現だけではなかった。
毎朝、学校に着いたら校門の前で身なりを正し、息を整える。そして心を落ち着けたら校舎に向かってゆっくりと頭を下げ、ゆっくりと上げる。一日の始まりに自分自身に対して礼をすることで、自分の中にある普段とは違う、もうひとりの自分を見出してほしい、という思いだった。

しかし、「校門の礼」は、すぐには受け入れられなかった。
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生徒は実行してくれないし、先生からは「生徒の行動を規制する」と反発もありました。・・・

僕は、入学式の翌日から毎朝校門に立ち、登校してくる生徒一人ひとりに礼をし、挨拶をしました。そして、校門の横には、「礼」という大きな文字の下に、「自分が自分に出会う礼である」と書いた自作の看板を立てました。
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たった一人でのスタートだったが、校門で礼をする生徒が少しずつ増えていった。2、3が月すると、こんな作文を書く生徒が出てきた。
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校門の前に立って頭を下げると、今までやってきたことがまずかった、しっかりしなくてはいけない、と思う自分に気づきました。
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(自己を見つめる爽快さ)
「校門での礼」が軌道に乗り始めた頃、河鰭校長はさらに給食と掃除の時間の改革に着手した。
給食の時間は、生徒たちはお喋りばかりで、食べ残しが多かった。そこで午前中の授業が終わると、全校生徒をランチルームの前の廊下で正座させ、当番の配膳が終わるまで待たせた。食事の時は、終始無言で食べるようにさせた。すると食べ残しがなくなった。

掃除も同様に、まず正座で黙想してから、無言で各持ち場を雑巾で磨かせた。すると生徒たちは懸命に掃除をするようになった。これらは食事も清掃も「行」であるという禅の教えを参考に取り入れたものだ。

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給食の前に正座をさせたのは気持ちを落ち着かせるというよりは、お腹が減るという生物としての体の感覚に訴えたんです。しばらく待つからこそ給食がおいしく感じられ、おいしく感じられるからこそ食べることに集中でき、集中できるから食べ残しがなくなっていくんです。
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食べ終わると、生徒と先生は箸を置き、「この命を無駄にすることなく、日々の勤めに励むことを誓います」と声を合わせる。「この命」とは、自分が今食べた魚や肉や野菜、穀物だ。それらの命をいただいて、我々は生きている。

掃除も無言でやることで、自分の作業に集中できる。校門で礼をし、食事前に正座で黙想をし、無言で掃除をする。その過程で、子供たちは「自己を見つめる爽快さ」を体で味わったのだ、と河鰭校長はいう。

河鰭校長が赴任して3年目くらいから、不思議なことに、生徒たちの成績が上がり始めた。 その後も長く「礼の教育」が続いているのは、子供たちが体でいいなと感じているからだという。

(給食に越前塗りの漆器を使ってもらいたい)
鯖江市豊(ゆたか)小学校の給食の時間、机の上に並ぶのは、黒く艶々と輝く地元の越前漆器のお椀やお盆だ。

越前漆器組合から給食に越前塗りの漆器を使ってもらいたいと提案があったのは、15年前。しかし、乗り越えなければならない壁がいくつもあった。まず漆はぬるま湯でやさしく洗わなければならないが、学校では衛生管理のために熱風消毒が必要だ。値段も高い。

それを聞いた越前塗りの職人さんたちは、熱風消毒可能な給食用漆器を開発し、値段も導入可能な価格に抑えた。それを受けて、市の教育委員会が予算を出し、平成12(2000)年に導入された。栄養教諭の塚田明美先生は言う。

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お椀の木をくりぬく職人さんがいる、塗りをする職人さんがいる。いろんな人が手をかけて一つのお椀を作っている。全国でもこんな漆の食器を使って給食を食べている子どもたちはいないんだよ、と伝えているので大切に扱ってくれますね。

予算や保管場所の関係でひと学年分しか漆器の食器はないため、学年ごとに交代で使うのですが、順番が回ってくると子どもたちも「きた、きた」と反応がいいんですよ。
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「和食に合って、いつもよりごはんがおいしく感じる」「越前漆器で食べると味が違うような気がする」と子どもたちの評判は上々だ。

(孫においしいものを食べさせたいというおばあちゃん心)
給食の途中、放送が入る。「今日のエンドウ豆はサルビア会の上田さんが作ってくれました」
「サルビア会」とは、地場産の野菜を学校給食に供給している会だ。毎日、給食のメニューに合わせて、33名のサルビア会の会員たちが、その日の朝にそれぞれの畑で収穫した野菜を届ける。

たとえば、ある日のメニューは「エンドウ豆ご飯」に、「かきたま汁」、地物のトビウオと県産野菜で作った「まる福あげ」、きゅうりとキャベツの「即席漬け」、トマト。これら13品目のうち、えんどう豆、トマト、きゅうりがサルビア会から提供されている。

サルビア会の会長・上田八重子さんは経緯をこう説明している。
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2,3年前、栄養教諭の塚田先生から地場産の野菜を学校給食に使いたいと提案がありました。私たちも安心安全な旬の食材を子どもたちに食べさせたいという思いがあり、気持ちが一致したんです。
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毎日、同じ野菜を何キロも用意するのは大変。それでも、形、大きさは不揃いでいいと言ってくれるので助かっています。孫においしいものを食べさせたいというおばあちゃん心で、作るのに熱が入りますね。
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栄養教諭の塚田先生は、教育面の効果を語っている。
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この野菜は、子どもたちが登下校で通る畑で作られているんです。自分が住む地域で、どんなものが作られているのかを給食を通して知ることができます。

また、野菜の旬はいつなのかがわかり、旬のものはおいしいということも実感できますよね。
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(「お陰様」から「しっかりしなくては」)
地元の職人たちが丹精を込めて作った重厚な漆の食器で、近隣農家が毎朝届けてくれる地場産の野菜を味わう。こうした周囲の大人たちの愛情にふれながら、生徒たちは毎日の給食をいただく。

また食事の後で「この命を無駄にすることなく」と唱えれば、自ずから、自分たちが「生きとし生けるもの」すべてのおかげで生きていることに気がつく。

登下校時には、校舎に向かって礼をする。静かに頭を下げれば、先生や友だちや校舎を思い浮かべながら、「今日も一日、よろしくお願いします」とか「今日もお世話になりました」という思いがこみ上げてくるだろう。

人間は一人で勝手に生きているのではない。両親や家庭、先生方、地元の人々、ひいては近くの田畑や山川などの「お陰で」生かされている、という事実に気がつくはずだ。そこから、自分も「しっかりしなくて」と思う。学力も体力も、こうした思いの上に築かれるものである。

次号では、この思いの上で、福井県の生徒たちが、どのように学力、体力を伸ばしているのか、その実際の有様を見てみたい。

---owari---
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