このゆびと~まれ!

「日々の暮らしの中から感動や発見を伝えたい」

日本武人の闘い方(後編)

2024年09月17日 | 日本
「敵を欺(あざむ)いて勝つのは真の武の道ではない」と日本最古の兵書は『孫子』の兵法を否定した。

(黒田博樹投手の志)
武を秩序を生み出す力と捉えると、どういう秩序を目指すのか、という志が問われる。この点について『闘戦経』はこう説く。

__________
人の道を説く儒教は戦いには弱く、戦いの場では死ぬしかない。謀略ばかり練っている人は人から信用されず、いざという時は逃げるしかない。・・・策略ばかりで生きてきた人が名を残したりすることはない。

儒術(じゅじゅつ)は死し、謀略は逃る。・・・未だ謀士(ぼうし:はかりごとをめぐらす人)の骨を残すを見ず。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「大事なことは志を持って一途に生きること、志士の魂を持つことです」と斎藤孝氏は解説する。その例として、黒田博樹投手がメジャーリーグで79勝もあげて、さらに年間20億円以上のオファーを受けながら、それを蹴って古巣の広島カープに戻ってきた逸話を挙げる。

__________
その理由が、広島という町に自分を待ってくれている人たちがいる、その人たちのためにカープを優勝させたい、まだ第一線で活躍できるうちに日本に帰ってきて、自分が培ってきたものを若い選手に伝えたい。日本に帰るならカープしかない、というものでした。・・・

・・・広島ファンだけでなく、多くの人に「黒田は男だったなあ」と長く語り継がれることでしょう。まさに、黒田選手は目先の損得よりも自らの志を貫き、「骨を残した」のです。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

(「手足の自由を失っても、気を失わず」)
武人の一途な志を支えるのが「気」である。武人は志を遂げるために「気張って」いなければならない。気について『闘戦経』はこう説く。

__________
気は形があるものから生まれるが、形がなくなっても残る。薬草は枯れた後もその気が宿り、体を癒やしてくれる。肉体が壊れていないのに、心が衰(すい)おとろえてしまうのは、天地の法則に則っていないということだ。

気なるものは容(かたち)を得て生じ、容を亡って存す。
草枯るるも猶(なほ)疾(やまい)を癒(いや)す。
四体未だ破れずして心まず衰(おとろ)ふるは、天地の則に非ざるなり。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

肉体は壊れても気力を失わなかった生き方として、斎藤孝氏は以下の例を挙げる。

__________
例えば星野富弘(とみひろ)さんという画家がいます。もとは中学の体育の先生でしたが、クラブ活動の指導中に脊椎を損傷し手足の自由を失ってしまいます。しかし、そこで気力まで失ってしまうことはなく、口に筆をくわえて絵や文字を書き始め、今や自らの名前がついた美術館までできています。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

たとえ手足の自由を失っても、気力を失わず、志を遂げようとするのが、日本の武人の生き方である。

(数千年も続いてきた「日本武人の生き方」を説いた書)
『闘戦経』の説く武人の生き方を見ると、その理想は中世以降に武士が登場してからも、そのまま受け継がれていったことが判る。

後に武士の理想像とされたのは楠木正成だが、人々が仰いだのは戦いでの卓抜な機略もさることながら、あくまでも後醍醐天皇の理想に殉じ、最後は弟と「七生報国(七たび生まれ変わっても国に報じよう」と言い交わし、高笑いした後に差し違えて自刃した一途さだった。

身の栄達も、謀略による勝利も願わず、ひたすらに志を遂げんとする一途さは、幕末に多くの志士を振るい立たせた吉田松陰、明治時代の軍人としてもっとも敬愛された乃木希典将軍、さらには先の大戦の特攻兵にも受け継がれていく。

こうして見ると、我が国を創り護ってきたのは、まさにこうした武人たちの精神であることが判る。その「武」の精神は2千年以上にわたって、日本人の心の奥底を流れてきたのである。

現代においても、黒田博樹投手や星野富弘氏のような生き方に我々が感銘を受けること自体が、我々の心の奥底に武人の精神が流れていることを示している。

『闘戦経』は「日本最古の兵書」というより、数千年も続いてきた「日本武人の生き方」を説いた書というべきであろう。それは現代社会においても、そのまま立派に通ずる生き方である。
 (文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本武人の闘い方(前編) | トップ | 天命、天職、真楽 ~ 日本人... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日本」カテゴリの最新記事