アイデアについて、一般的に言われていることとは少し違うことも述べておきたいと思います。
前述のように、「馬上・枕上(ちんじょう)・厠上(しじょう)」の三上(さんじょう)や、散歩中、喫茶店にいるときなどに、アイデアが出やすいとされていますが、それらに共通する条件は「リラックスしていること」ということです。
例えば、馬上に関しては、「乗り物に乗ってリズミカルに揺(ゆ)られているうちにリラックスしてきて、アイデアが出やすい」と言えますし、寝(ね)ているときやトイレのなかにいるときも、リラックスして、くつろいでいます。
お風呂のなかもそうでしょう。特に、女性の場合は、お風呂は楽しみの一つかもしれません。ビジネスで疲れた人のなかには、香りを立てたり、浴室を暗くしてロウソクをともしたりし、何か怪(あや)しげな雰囲気のなかで、お湯に浸かり、くつろぐ人もいるようです。それも確かにリラックスタイムでしょう。
そのように、「リラックスしているときにアイデアが出る」と言われていて、実際に、アイデアが出るのは、そういうときであることが多いわけですが、ただ、その前の段階があるのです。
「不断に、何かを強く求めて研究したり精進したりしている状態が続いていて、そのあとのリラックスタイムに何かがひらめいてくる」ということが多いので、ひらめきを得る前の段階を忘れてはいけないわけです。
「ただ休んでいればよい」ということではないのであって、「一生懸命に何かを求め、考え続けている人が、少し日常から離(はな)れてリラックスしたときに、アイデアを得やすい」ということなのです。
したがって、私は、どちらかというと、リラックスしてアイデアが浮かぶ前の段階を重視したい気持ちを持っています。
アイデアを得る前に、「アイデアを得たい」という強い熱意や願望のあることが大事なのです。
必要に迫られると、人間は、さまざまなことを考えに考えるものです。
経営者は、一般に、必要に迫られて、考えを重ねているはずです。アイデアを出したり判断をしたりするために、かなり頭を使って考えていると思いますが、やはり、「必要に迫られる」ということ、あるいは、「強い熱意を持つ」ということが大事です。
松下幸之助は、「『二階に上がりたい』という強い熱意があればこそ、人は、梯子(はしご)をつくったり、階段をつくったりするのだ。『二階に上がりたい』という熱意がなければ、そのようなものは誰もつくりはしない」ということを述べています。
「どうしても二階に上がりたい」「どうしても屋根の上に上がりたい」という熱意があれば、人は梯子や階段を発明し始めますが、そういう熱意がなければ、建物は平屋建てばかりになります。
そのように、「どうしても、こうしたい」という強い熱意があれば、人は何でも考え出し、アイデアをひねり出してくるものです。
「どうしても星をもっとよく見たい」と思えば、人間は望遠鏡を発明するようになります。「どうしても東海道をもっと速く楽に移動したい」と思えば、新幹線ができたり、飛行機が飛んだりするようになります。「どうしても月に行きたい」と思えば、ロケットも飛ぶようになります。
まず、熱意というものが大事なのです。「こうしたい」という強い気持ちを持っていると、その熱意に引かれて、必要なアイデアが引き寄せられてきます。「実現したいもの」を持っていなければ、それに必要なアイデアを磁石のように引き付けてくることができないのです。
例えば、「海外に行きたい」という強い熱意を持っていれば、語学を勉強したい気持ちになります。そして、それについてアイデアがたくさん浮かぶこともあります。「これを実現したい」という強い気持ちがなければ、そうはならないものです。
したがって、私は、強い熱意のほうを重視したいのです。
「リラックスタイムにアイデアが出てくる」ということは、「強い熱意があることを前提として、結果的に、そのようなときに、アイデアが出ることが多い」ということなのです。
どうか、強い熱意を持っていただきたいと思います。そのときに必ず発明は生まれてくるのです。
社長であれば、「どうしても社業を十倍にしたい」ということを強く願い、「十倍の規模の会社にするには、どうしたらよいか」と、ずっと考え続けていると、十個も二十個も、五十個も百個も、アイデアが出てき始めます。
しかし、「このままでよい」と思っていれば、アイデアは出てきません。
これは発展的な考えですが、逆の場合、すなわち、「会社が借金をたくさん背負っていて、倒産しかかっている。この借金をどうやって返すか」というような状態でも、アイデアが出ないわけではないのです。後ろ向きではありますが、そういうアイデアの出し方もあるわけです。
---owari---
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