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天命、天職、真楽 ~ 日本人のための『ポケット修養論』(後編)

2024年09月19日 | 日本
「日本人の精神にはまだ清冽(せいれつ)な地下水が流れている」

(「誠心誠意を尽くす時」)
イチローの生き様を見れば、次の言葉も自然に納得がいくだろう。

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「至誠(しせい)神の如(ごと)し」ともいう。誠心誠意を尽くす時、人間業とは思えない、さながら神の仕業(しわざ)のようなことが出現するというのである。胸に刻むべき人生の法則である。
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イチローが大リーグに登場した2001年、身長175センチ、体重73キロの体格では大リーグで通用するはずがない、と見られていた。しかし、その年、首位打者(3割5分)と盗塁王(56盗塁)を同時に獲得。大リーグでも51年ぶりの快挙だった。守備でも失策わずか1個でゴールドクラブ賞を獲得。

イチローよりも、体格でも才能でも、より恵まれた選手は大リーグにはゴロゴロしているだろう。イチローのこの「神の仕業」とは、体格や才能がもたらしたものではないことは明らかである。イチローの少年の頃からの「神の如」き至誠が「神の仕業」をもたらしたものだと考えざるを得ない。

(「素直な人が伸びる」)
藤尾氏は、雑誌『致知』の取材を通じて、それぞれの世界で一道を切り拓いてきた人々と出会った。

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「どういう人が伸びますか」
という質問に、職業のジャンルを越え、その道の頂点を極めた人たちが一様に答えたのは、
「素直な人が伸びる」
というシンプルな言葉だった。即ち、素直な人でなければ運命を伸ばすことはできないということである。
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目の前の仕事に対して「こんな雑用をやらされていては出世できない」とか「俺の才能は、こんなつまらない仕事では発揮できない」などと余計なことを考える人は「素直な人」ではない。

与えられた仕事に一生懸命取り組み、失敗して叱られたら「次はどうしたら、うまくできるか」と一心に工夫し、何かアドバイスを受けたら、喜んでその通りにやってみよう、とするのが「素直な人間」である。それはそのまま「誠心誠意」であり「至誠」である。

どういう分野でも、そういう「素直な人が伸びる」し、そういう人が自分の天職を見つけていく。それは一つの道で大成した人々が体験を通して得た法則である。

(「真の楽しみ」)
与えられた仕事に誠心誠意、取り組んでいくというのは、決して苦しい道ではない。藤尾氏は言う。

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名人達人の域に達した人たちが等しく抱く感慨がある。

「精進(しょうじん)の中に楽(らく)あり」

人生の真の楽しみは、ひたすらな努力、精進する中にこそ潜んでいるということである。それはレジャー、娯楽から得る安逸な楽しみよりもはるかに大きく深い、人間の根源から湧き起こる楽しみである。

その楽しみを知っているのが名人達人である、とも言える。
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先哲の多くは「真の楽しみ」を「真楽(しんらく)」という言葉で表してきた。

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何事であれ対象と一体になった時に生命の深奥から、湧き上がってくる楽しみが「真楽」である。物事に無我夢中、真剣に打ち込んでいる、まさにその時に味わう楽しさが真楽なのである。

人生の醍醐味(だいごみ)とは、この真楽を味わうことに他ならない。
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この真楽こそ、天職に至誠を持って取り組んだ人への天からのご褒美であり、人間から見れば真の幸福なのである。

(「日本人の精神にはまだ清冽な地下水が流れている」)
我が先人たちが信じ、実践してきた修養論とは、かくも簡明にして味わい深く、しかも誰でもが自分の人生の中で実践しうるものであった。

藤尾氏の『ポケット修養訓』は、その簡明さそのままに簡潔で、ポケットに入れて仕事の合間にも気になった章句を読み直すことができる。

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日本人の精神にはまだ清冽な地下水が流れている。この水を清冽なまま次代に引き継いでいくのが、先に生きる私たちの使命である。
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藤尾氏が38年前に月刊誌『致知』の発刊に取り組み、今また、この『ポケット修養訓』を出版した志はここにあるのだろう。

『致知』の創刊時、「こんな固い雑誌は誰も読まない、といわれたものです」と藤尾氏は回想する。そんな「固い雑誌」がいま読者10万人を超え、また『致知』を社員教育の一環として取り入れた会社も1千社を超えるという。

いまだに日本人の心の奥底に流れている「清冽な地下水」に、多くの読者、企業が気づき始めたという事だろう。
 (文責:「国際派日本人養成講座」編集長・伊勢雅臣)

---owari---
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