(稲むらの火)「これはただ事でない」海辺の高台に住む庄屋の五兵衛は、今の地震の長いゆったりとしたゆれ方と、うなるような地鳴りでそう思った。海を見ると波が沖ヘ沖へと動いて、みるみる海岸には、広い砂原や黒い岩底が現れて来た。「大変だ。津波がやって来るに違いない」と、五兵衛は思った。このままにしておいたら、四百の命が、村もろ共一のみにやられてしまう。家にかけ込んだ五兵衛は大きな松明を持って飛び出して来た . . . 本文を読む
数千年に渡って蓄えられてきた日本の伝統技術が、最先端の現代技術に生かされ、明日を開きつつある。(「漆の一滴は汗の一滴」)漆は「ウルシ」の木の樹液を原料とする。ウルシ科で漆を採取できる樹木は日本、朝鮮、中国、インドネシア半島など、東アジア地域にしか自生せず、漆工芸が東洋独自の工芸として発達した原因となっている。日本産のウルシの樹液が最上級とされ、国内の工芸品の仕上げのほとんどはこれを用いるが、樹木の . . . 本文を読む
数千年に渡って蓄えられてきた日本の伝統技術が、最先端の現代技術に生かされ、明日を開きつつある。(明日を開く伝統技術)漆塗りのノートパソコンや液晶テレビが売り出された。深みのある黒、鮮やかな赤、なめらかで優美な触感。時を経ても古びずに、ますます艶を増していく。こんな工芸品のような家電や情報機器が広まったら、数年で使い捨てという現在の大量消費文化も一変するのではないか。部品やソフトの入れ替えだけで、本 . . . 本文を読む
皇室は今も昔も庶民たちの精神の生み出した文化伝統の保護者である。(「私たちも精一杯いい糸を作ろう」)平成15(2003)年6月4日、皇居から群馬県の碓氷(うすい)にある製糸工場に、約4万2千粒もの小石丸の繭が届けられた。日本で4カ所しか残っていない製糸工場の一つである。通常の製糸では、繭を高温で乾燥させるが、それでは小石丸の糸が持っている光沢、しなやかさが失われてしまう。そこで生きた蛹(さなぎ)の . . . 本文を読む
皇室は今も昔も庶民たちの精神の生み出した文化伝統の保護者である。(「夏の日に音たて桑を食(は)みゐし蚕(こ)ら」)蚕食(さんしょく)という言葉がありますが、本当に蚕(かいこ)は桑を与えると葉の端からいっせいに食べ始めます。そのとき小雨を思わせる音がするのですが、皇后さまはその音がお好きで、蚕に耳を近づけては聞き入っておられます。こう語るのは、皇居内の紅葉山御養蚕所主任の佐藤好祐(よしすけ)氏。ここ . . . 本文を読む