政治向きのことは触れるだけの知識も見識もないが、
著名な評論家、田原総一朗氏の2012年5月11日付けの記事に触れ、かなりの部分に
同感したので全文を以下に転載させてもらうこととした。
---------------------------------------------------------------------------------------------------
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
民主党の最大の欠点は「決断しない」ことだ
東京電力は5月8日、次期会長に政府の原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦運営委員長、
社長に広瀬直己常務が就任することを発表した。6月末の株主総会後の取締役会で正式に
決定する。
東電新社長就任要請を断った経済界のトップたち
弁護士の下河辺和彦氏が次期会長に内定したのは4月半ば過ぎで、内定までには紆余曲折があった。
新社長もなかなか決まらなかった。
政府・民主党幹部が新社長に当初考えていたのは、経済界からの大物経営者の起用である。
実はトヨタ自動車の社長と会長、経団連会長を歴任した奥田碩氏に民主党から社長就任の
申し入れがあった。奥田さんは一時その気になったようだが、トヨタ社内から反発があり、
結局「奥田社長」は実現しなかった。彼以外の経営者たちも皆断っている。
なぜ経済界のトップがことごとく断ったのか。これから書くことは、私の独断でも偏見でもなく、
すべて取材による一次情報である。
「東京電力を今後どうするか」について、民主党の方針は定まっていない。
東電の経営再建を行うというが、再建とは何か。東電には柏崎刈羽原発があり、事故を免れた
福島第二原発もある。今後、東電の原発再稼働を認めるかどうか。これらがまったく決まっていない。
ただの「謝り役」の社長
電力システムの改革をめぐり発送電分離や地域独占をどうするか、といった議論が先行している。
しかし、それは将来的なテーマであり、しかも東電だけの問題ではない。
日本の電力会社全体の問題だ。
そうした評論家的な論評ばかりが先へ先へと進み(とはいえ具体性はない)、
「東電をどう再建するか」といった今直面する重要な問題については議論が進んでいないが実情である。
こうしたことを背景に、経済界のトップたちが東電社長を拒んだ理由は二つある。
一つは、社長に就任してもただの「謝り役」になるのではないか、という懸念だ。
東電再建は難しいから大物経営者たちが断ったというのは違う。
経営者としては、再建は難しいほどやりがいがある。
政府・民主党に再建の具体的なイメージがない現状では、ひたすら頭を下げるだけ、謝るだけの社長に
なってしまう。それを嫌がったのだ。
西川・前日本郵政社長の二の舞は避けたい
もう一つの理由は、西川善文・前日本郵政社長の二の舞になるのは避けたい、という思いからだ。
実はこちらのほうが理由としては大きい。
三井住友銀行頭取などを務めた西川さんは2006年、小泉郵政民営化で発足した日本郵政の初代社長に
就任した。
在任中、かんぽの宿売却問題で苦労されたが、2009年に民主党政権が発足すると郵送民営化見直しが
閣議決定され、その後辞任に追い込まれた。
もっといえば、国民新党代表だった亀井静香氏がただちに西川さんのクビを切ったのだ。
私は当時、西川さんに話を聞いてみた。
「あなたのクビを切るとき、亀井さんは何と言ったんですか」。西川さんはこう答えた。
「あなたには非常に申し訳ない。何の恨みもない。郵政にも興味がない。
しかし私は、小泉氏がやったことはすべてぶっつぶしたい。それだけだ」。そう亀井さんは言ったという。
まったく呆れる話だが、政権が変わると理由もなく、すぐにクビを切られる。政治の一面でもある。
どの経営者も、今の民主党政権が長く続くとは思っていない。
政権が代われば、東電の新社長になったところで、すぐにクビを切られ、西川さんの二の舞になる。
それだけは避けたい。そう経済界のトップたちは恐れているのだ。
関西で夏に14.9%不足、それでも原発を再稼動しない
民主党政府が今やっていることはわからないことだらけだ。
私は、自然エネルギーの利用が今後拡大し、原発を賄えるだけの電力を確保できるようになるのなら、
将来的に「原発ゼロ」になることはいいことだと思っている。
しかし、それは10年、20年、あるいはそれ以上先の話だ。
原発再稼働は今夏の電力不足問題に関わるものであり、目前の話である。
原発再稼働と原発ゼロは別の話だ。
私のテレビ番組「激論!クロスファイア」(5月5日放映、BS朝日)に出演してくれた枝野幸男経済産業相も
同じ認識を持っていた。
今年8月の電力需給見通しについて、政府は4月23日、猛暑になれば関西電力管内で16.3%不足するとした。
その後見直し、それでもなお14.9%不足すると5月7日に発表した。
それほど大幅に電力が不足するのなら、なぜ関西電力の大飯原発3、4号機を再稼働しないのか。
そもそも政府が発表した14.9%不足するという数字は、国民もメディアも信用していない。
特に朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は否定的に見ている。
東日本大震災後は東電管内で計画停電を実施し、企業も一般の人々も節電に努めた。
東電の福島第一原発事故があったからで、やむを得ないものとして受け入れたのだ。
しかし関電の原発は事故を起こしたわけではない。何もエラーがないのに、なぜ計画停電が行われるのか。
関電管内の人々は計画停電など本気では受け止めていない。
責任をとりたくないから決断できない
政府は関電管内で大幅に電力が不足するとしておきながら、なぜ原発の再稼働をしないのか。
再稼働するには決断が必要で、決断するということは責任をとるということである。
責任をとりたくないから決断できないのだ。
民主党政治の最大の欠点は、決断しないことである。
野田佳彦首相は4月30日からアメリカを公式訪問したが、オバマ大統領と話し合うべきことは二つあった。
一つは米軍普天間基地の移設問題である。野田首相は「普天間基地を移設する」と言ってきた。
しかし、今回の訪米ではひと言も言わなかった。「移設する」と表明すれば、責任をとらなければいけない。
それが怖いのだ。言わないということは、事実上の「普天間凍結」ではないか。
もう一つは環太平洋経済連携協定(TPP)問題である。TPP交渉への参加を表明することが、今回の訪米の
お土産だと言われていた。ところが野田さんはTPPについても発言しなかった。なぜだろうか。
理由は民主党の輿石東幹事長の存在がある。
輿石さんは「TPP交渉参加を持ち出したら、民主党が無茶苦茶になる」と心配している。
つまり、TPPに反対する小沢グループとの間に溝ができ、民主党が分断されるのを恐れているのだ。
私は、野田さんは「どうぞ分断してください」と堂々と言うべきだと思う。ところが、そうは言えない。
民主党分裂を覚悟し、それを目の当たりにするのが怖いからである。
岡田行革懇はビジョンが示されていない
もう一つ民主党の悪いところが表れている出来事があった。
岡田克也副総理の肝入りで「行政改革に関する有識者懇談会」の初会合が5月7日に開かれた。
メンバーには稲盛和夫・京セラ名誉会長、葛西敬之・JR東海会長ら10人が名を連ねている。
ところが、どんな行革を行うのか、政府のビジョンがまったく示されていないのである。
岡田行革懇は「土光臨調」を念頭に置いているらしい。鈴木善幸内閣が掲げた「増税なき財政再建」を
実現するため、1981年、土光敏夫さんを会長に発足した第2次臨時行政調査会は「土光臨調」と呼ばれた。
中曽根康弘内閣のときに土光臨調は国鉄(日本国有鉄道)、日本電信電話公社、日本専売公社の民営化、
そして教育改革を行うという目的がはっきりしていた。
ところが岡田行革懇は目的が曖昧で、いつまでに何をやるのか、わからないのだ。
明確なビジョンを示さない、決断をしない――これは民主党政権の特徴と言ってもいいだろう。
大飯原発が再稼動できずに夏を迎えたら
もう一度、原発再稼働に話を戻す。大飯原発の再稼働ができないまま夏を迎えたら、どうなるか。
政府の方針は二つ考えられる。
まず一つめ。「すみません。15%の計画停電をさせていただきます」と一般家庭や工場に計画停電を呼びかける。
もう一つは、「まずは節電をお願いします。そして、いよいよ行き詰ると明日から計画停電をします」と言う
もので、これは最悪だ。
これが決断できない野田内閣の姿勢だ。一貫して、責任をとりたくないのである。
転載 以上
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
田原総一朗(たはら・そういちろう)氏略歴
1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストと
して独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを
務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、1998年、ギャラクシー35周年記念賞
(城戸賞)を受賞。
また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。
塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。著作に『なぜ日本は「大東亜戦争」を
戦ったのか』(PHP研究所)、『原子力戦争』(ちくま文庫)、『ドキュメント東京電力』(文春文庫)、
『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)など多数。近著に「大転換 『BOP』ビジネスの新潮流」
(潮出版社)がある。
同氏のメルマガから転載
著名な評論家、田原総一朗氏の2012年5月11日付けの記事に触れ、かなりの部分に
同感したので全文を以下に転載させてもらうこととした。
---------------------------------------------------------------------------------------------------
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
民主党の最大の欠点は「決断しない」ことだ
東京電力は5月8日、次期会長に政府の原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦運営委員長、
社長に広瀬直己常務が就任することを発表した。6月末の株主総会後の取締役会で正式に
決定する。
東電新社長就任要請を断った経済界のトップたち
弁護士の下河辺和彦氏が次期会長に内定したのは4月半ば過ぎで、内定までには紆余曲折があった。
新社長もなかなか決まらなかった。
政府・民主党幹部が新社長に当初考えていたのは、経済界からの大物経営者の起用である。
実はトヨタ自動車の社長と会長、経団連会長を歴任した奥田碩氏に民主党から社長就任の
申し入れがあった。奥田さんは一時その気になったようだが、トヨタ社内から反発があり、
結局「奥田社長」は実現しなかった。彼以外の経営者たちも皆断っている。
なぜ経済界のトップがことごとく断ったのか。これから書くことは、私の独断でも偏見でもなく、
すべて取材による一次情報である。
「東京電力を今後どうするか」について、民主党の方針は定まっていない。
東電の経営再建を行うというが、再建とは何か。東電には柏崎刈羽原発があり、事故を免れた
福島第二原発もある。今後、東電の原発再稼働を認めるかどうか。これらがまったく決まっていない。
ただの「謝り役」の社長
電力システムの改革をめぐり発送電分離や地域独占をどうするか、といった議論が先行している。
しかし、それは将来的なテーマであり、しかも東電だけの問題ではない。
日本の電力会社全体の問題だ。
そうした評論家的な論評ばかりが先へ先へと進み(とはいえ具体性はない)、
「東電をどう再建するか」といった今直面する重要な問題については議論が進んでいないが実情である。
こうしたことを背景に、経済界のトップたちが東電社長を拒んだ理由は二つある。
一つは、社長に就任してもただの「謝り役」になるのではないか、という懸念だ。
東電再建は難しいから大物経営者たちが断ったというのは違う。
経営者としては、再建は難しいほどやりがいがある。
政府・民主党に再建の具体的なイメージがない現状では、ひたすら頭を下げるだけ、謝るだけの社長に
なってしまう。それを嫌がったのだ。
西川・前日本郵政社長の二の舞は避けたい
もう一つの理由は、西川善文・前日本郵政社長の二の舞になるのは避けたい、という思いからだ。
実はこちらのほうが理由としては大きい。
三井住友銀行頭取などを務めた西川さんは2006年、小泉郵政民営化で発足した日本郵政の初代社長に
就任した。
在任中、かんぽの宿売却問題で苦労されたが、2009年に民主党政権が発足すると郵送民営化見直しが
閣議決定され、その後辞任に追い込まれた。
もっといえば、国民新党代表だった亀井静香氏がただちに西川さんのクビを切ったのだ。
私は当時、西川さんに話を聞いてみた。
「あなたのクビを切るとき、亀井さんは何と言ったんですか」。西川さんはこう答えた。
「あなたには非常に申し訳ない。何の恨みもない。郵政にも興味がない。
しかし私は、小泉氏がやったことはすべてぶっつぶしたい。それだけだ」。そう亀井さんは言ったという。
まったく呆れる話だが、政権が変わると理由もなく、すぐにクビを切られる。政治の一面でもある。
どの経営者も、今の民主党政権が長く続くとは思っていない。
政権が代われば、東電の新社長になったところで、すぐにクビを切られ、西川さんの二の舞になる。
それだけは避けたい。そう経済界のトップたちは恐れているのだ。
関西で夏に14.9%不足、それでも原発を再稼動しない
民主党政府が今やっていることはわからないことだらけだ。
私は、自然エネルギーの利用が今後拡大し、原発を賄えるだけの電力を確保できるようになるのなら、
将来的に「原発ゼロ」になることはいいことだと思っている。
しかし、それは10年、20年、あるいはそれ以上先の話だ。
原発再稼働は今夏の電力不足問題に関わるものであり、目前の話である。
原発再稼働と原発ゼロは別の話だ。
私のテレビ番組「激論!クロスファイア」(5月5日放映、BS朝日)に出演してくれた枝野幸男経済産業相も
同じ認識を持っていた。
今年8月の電力需給見通しについて、政府は4月23日、猛暑になれば関西電力管内で16.3%不足するとした。
その後見直し、それでもなお14.9%不足すると5月7日に発表した。
それほど大幅に電力が不足するのなら、なぜ関西電力の大飯原発3、4号機を再稼働しないのか。
そもそも政府が発表した14.9%不足するという数字は、国民もメディアも信用していない。
特に朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は否定的に見ている。
東日本大震災後は東電管内で計画停電を実施し、企業も一般の人々も節電に努めた。
東電の福島第一原発事故があったからで、やむを得ないものとして受け入れたのだ。
しかし関電の原発は事故を起こしたわけではない。何もエラーがないのに、なぜ計画停電が行われるのか。
関電管内の人々は計画停電など本気では受け止めていない。
責任をとりたくないから決断できない
政府は関電管内で大幅に電力が不足するとしておきながら、なぜ原発の再稼働をしないのか。
再稼働するには決断が必要で、決断するということは責任をとるということである。
責任をとりたくないから決断できないのだ。
民主党政治の最大の欠点は、決断しないことである。
野田佳彦首相は4月30日からアメリカを公式訪問したが、オバマ大統領と話し合うべきことは二つあった。
一つは米軍普天間基地の移設問題である。野田首相は「普天間基地を移設する」と言ってきた。
しかし、今回の訪米ではひと言も言わなかった。「移設する」と表明すれば、責任をとらなければいけない。
それが怖いのだ。言わないということは、事実上の「普天間凍結」ではないか。
もう一つは環太平洋経済連携協定(TPP)問題である。TPP交渉への参加を表明することが、今回の訪米の
お土産だと言われていた。ところが野田さんはTPPについても発言しなかった。なぜだろうか。
理由は民主党の輿石東幹事長の存在がある。
輿石さんは「TPP交渉参加を持ち出したら、民主党が無茶苦茶になる」と心配している。
つまり、TPPに反対する小沢グループとの間に溝ができ、民主党が分断されるのを恐れているのだ。
私は、野田さんは「どうぞ分断してください」と堂々と言うべきだと思う。ところが、そうは言えない。
民主党分裂を覚悟し、それを目の当たりにするのが怖いからである。
岡田行革懇はビジョンが示されていない
もう一つ民主党の悪いところが表れている出来事があった。
岡田克也副総理の肝入りで「行政改革に関する有識者懇談会」の初会合が5月7日に開かれた。
メンバーには稲盛和夫・京セラ名誉会長、葛西敬之・JR東海会長ら10人が名を連ねている。
ところが、どんな行革を行うのか、政府のビジョンがまったく示されていないのである。
岡田行革懇は「土光臨調」を念頭に置いているらしい。鈴木善幸内閣が掲げた「増税なき財政再建」を
実現するため、1981年、土光敏夫さんを会長に発足した第2次臨時行政調査会は「土光臨調」と呼ばれた。
中曽根康弘内閣のときに土光臨調は国鉄(日本国有鉄道)、日本電信電話公社、日本専売公社の民営化、
そして教育改革を行うという目的がはっきりしていた。
ところが岡田行革懇は目的が曖昧で、いつまでに何をやるのか、わからないのだ。
明確なビジョンを示さない、決断をしない――これは民主党政権の特徴と言ってもいいだろう。
大飯原発が再稼動できずに夏を迎えたら
もう一度、原発再稼働に話を戻す。大飯原発の再稼働ができないまま夏を迎えたら、どうなるか。
政府の方針は二つ考えられる。
まず一つめ。「すみません。15%の計画停電をさせていただきます」と一般家庭や工場に計画停電を呼びかける。
もう一つは、「まずは節電をお願いします。そして、いよいよ行き詰ると明日から計画停電をします」と言う
もので、これは最悪だ。
これが決断できない野田内閣の姿勢だ。一貫して、責任をとりたくないのである。
転載 以上
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
田原総一朗(たはら・そういちろう)氏略歴
1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストと
して独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを
務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、1998年、ギャラクシー35周年記念賞
(城戸賞)を受賞。
また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。
塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。著作に『なぜ日本は「大東亜戦争」を
戦ったのか』(PHP研究所)、『原子力戦争』(ちくま文庫)、『ドキュメント東京電力』(文春文庫)、
『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)など多数。近著に「大転換 『BOP』ビジネスの新潮流」
(潮出版社)がある。
同氏のメルマガから転載