インド洋にじわじわと忍び寄る中国の脅威【インド安全保障専門家チェラニー氏に聞く(1)】
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ブラーマ・チェラニー
プロフィール
(Brahma Chellaney) インド・政策研究センター教授。戦略問題専門家。インド外務相の政策顧問団メンバー。2001年までインド政府国家安全保障会議(NSC)顧問として対外安全保障グループ座長を務めた。著作に『中国、インド、そして日本の興隆』など。
本誌7月号では、インドで中国の「サラミ・スライシング戦略」について訴えてきた、インド・政策研究センター教授のブラーマ・チェラニー氏に、インドの立場から中国の脅威について話を聴いた。誌幅の関係上、収録できなかった内容を含め、2回にわたってお送りする。1回目は、中国の「一帯一路」構想をどう見るか。
「一帯一路」構想は「真珠の首飾り戦略」を温和に言い換えただけ
――習近平国家主席は「一帯一路」構想を発表しました。これは、インドではどのように受け止められていますか。
ブラーマ・チェラニー(以下、チ): 中国共産党政府の「一帯一路」構想、つまり、2つのシルクロード構想は、習氏の構想の一つです。これは、中国が東南アジアに進出し、そして中東にまで進出して、世界で大きな力を持つということです。このプロジェクトによって、中国は経済的な影響力を築くことができるので、中国の領域が広がっていくことになります。
中国は海のシルクロード構想において、インドを引きこもうとしています。海のシルクロードというのは、実際は、「真珠の首飾り戦略」(中国が、香港からスーダンまでの沿岸各地に軍港やインフラ投資を行い、シーレーンを確保しようとする戦略)の温和な呼び方なのです。この新しい名前を使うことで、中国共産党政府は、「ウィン―ウィン」の貿易関係を演出し、市場を主導しようとしています。
インド洋では、アメリカの優位が揺らいでいますし、アメリカは離れつつあります。中国は今、南シナ海での動きと同じように目立たないよう、インド洋へと進出しつつあります。
中国は少しずつ国境線を変えようとしている
――あなたは、中国の戦略を、じわじわと領土を削り取っていくという意味で「サラミ・スライシング」と呼んでいます。中国が、こうした戦略をとっていると確信を持ったのは、いつ、どの事象を受けてのことだったのですか。
チ: 私は長らく、中国がひっそりと、水面下で「事実」を積み上げてきた努力を追ってきました。中国は密かに、近隣諸国の境界地を侵略し続けており、これがアジアの不安定化要素の鍵であることが明らかになってきました。中国の海軍や空軍の一部が南シナ海、東シナ海で活動している間にも、山あいのインドとの国境付近では陸軍が活発に活動し、少しずつ国境線を変えようとしてきました。
「サラミ・スライシング」戦略は、それ自体は開戦の原因とならないような、小さな行動を進めていくものです。しかし、時間が経つと、累積的に中国の意図する戦略的な変化になっていきます。水面下で武力侵略を進めることで、中国は、対象となる国家の選択肢を厳しく制限することを目指しています。その国の防衛計画を破壊したり、あるいは効果的な抵抗策を取りにくくするのです。
領土の現状を変えていく戦略は、中華人民共和国ができた1949年からずっと続いている事業といえます。初期には、新疆ウイグルやチベット高原に領土を広げたことにより、中国の領土は二倍以上になりました。
続いて、1954年から1962年の間には、中国の勢力は、インドとパキスタンの国境にある、スイスと同じくらいの広さのアクサイチン高原にまで広がりました。そして1974年には西沙諸島、1988年にはジョンソン南礁、1995年にはミスチーフ礁、最近では、スカボロー礁へと広がっています。
現在、中国はサラミ・スライシングを、化石燃料を得る、そして漁獲を増やすという名目で使っています。全ては、領土と領海を主張するためのものです。東シナ海の防空識別圏の設定も、その例ということになります。アジアの安全保障について、中国は、他国の関心を集めないようにしながら境界線を引き直そうと努力しているのです。
インドの政治家には「海洋国家である」という自覚が薄い
――中国の「サラミ・スライシング」戦略は、インド洋まで及んでくると考えていますか。
チ: インド洋は、世界一のエネルギー輸送量を誇る貿易上重要なシーレーンです。そして、インドは、インド洋において特に支配的な位置にある国です。中国の海のシルクロード構想にとって脅威と言えるのです。
しかし、インドは海洋勢力であるにもかかわらず、インドの政治家の側には、中国との問題は「陸地のフロンティア」であるという強迫観念があります。中国とパキスタンとの国境に、関心が固定されてしまっているのです。
インドは、「歴史的に主要な海洋国家である」という事実に目を向け、マインドセットを変えるべきです。もし、インドが海上の領域を無視し続ければ、中国の脅威は海から現れてきて、その結果、中国のインド包囲が完成してしまうでしょう。
――中国が南シナ海を支配したとして、それはインドにどのような影響を与えますか?
チ: 南シナ海は、インドにとって重要です。中国の近隣国家との関係は、国際法でなく、中国の意図によって作られた歴史に基づいていることを思い出してみましょう。もし、中国が南シナ海ルートを手中に収めたならば、インドを含めた他国に対しては、より攻撃的になるだろうことが予想されます。
それに、南シナ海はインド洋に対しての影響という意味では重大なものがあります。南シナ海における勢力争いは、中国中心のアジアを作り出そう、という中国の意図の中核をなしています。もしそうなれば、そのすぐ西側に位置するインド洋にも大きな影響があります。インド洋から南シナ海を抜けて太平洋に出ることもできなくなってしまう。中国によるアジアでの力の統合は、インドの利益を直接減らすことになるでしょう。(続く)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『真の平和に向けて 沖縄の未来と日本の国家戦略』 大川隆法著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1464
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