◆日本の再武装が中国のアジア支配を打ち破る【インド安全保障専門家チェラニー氏に聞く(2)】
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ブラーマ・チェラニー
プロフィール
(Brahma Chellaney) インド・政策研究センター教授。戦略問題専門家。インド外務相の政策顧問団メンバー。2001年までインド政府国家安全保障会議(NSC)顧問として対外安全保障グループ座長を務めた。著作に『中国、インド、そして日本の興隆』など。
現在、書店に並んでいる本誌7月号では、中国の「サラミ・スライシング戦略」について訴えてきた、インド・政策研究センター教授のブラーマ・チェラニー氏に、インドの立場から中国の脅威について話を聴いた。誌幅の関係上、本誌に収録できなかった内容を含め、2回にわたってお送りする。2回目は中国の経済進出や、日印の協力について。
――インドはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創立メンバーに加わりましたが、あなたはAIIBへの参加について、どのようにお考えですか。インドにとって、参加するメリットとデメリットは何でしょうか。
ブラーマ・チェラニー(以下、チ): 中国とインドは新興5カ国(BRICs)のメンバーです。非西洋国にとって、BRICsは冷戦後の世界戦略において重要なものとなってきました。BRICsはこれまで、「新開発銀行」をつくることに合意しており、本部は上海に置かれる予定で、インド人が初代総裁になることが決まっていました。ですから、中国がAIIBの構想を明かした時、インドは参加することに同意したのです。
私が思うに、インドがAIIBに参加した一番の理由は、その決定に不都合な点がなかったからということです。そして、創立メンバーとして、AIIBをつくるにあたって影響力を持てると予想されるからです。私は、イギリスや他のアメリカの同盟国がAIIBに参加したのも同じ理由なのだろうと考えています。
――あなたは、インドと中国との間の貿易摩擦を懸念しています。ASEAN諸国では、経済面で対中依存度が高い国が数多くあり、中国の言いなりになっている国もあります。インドにおいて、そのような危険は予想されますか。
チ: そのリスクはあります。中国は、他の国と貿易して商業的に浸透していくことを、その国で政治的な権力を持つために使っています。2つのシルクロード構想をとってみれば、中国国内での経済成長が鈍くなったので、国営企業が他国で商業活動をするようにしたり、援助という名目で投資を増やすなどの戦略を取ろうとしているのでしょう。
インドは、流れ込んでくる安い中国製品を取り去るべきです。中国が、インドで投げ売りをするのを許してはなりません。
中国のインドへの輸出は、すでに、輸入の約3.5倍になっています。インドの議会は5月、中国に対するインドの貿易赤字が今年だけで34%膨らんだと伝えています。約360億ドルから、約480億ドルへと膨らんだのです。しかし、中国のインドにおける投資総額はわずか50億ドルにすぎません。これは、中国とインドの現在の貿易黒字の1%をわずかに超える額にすぎないのです。
中国が、インドを弱めるためにどのような圧力をかけてきたのか、想像してみてください。実際に、中国は、貿易を政治的な武器として使おうとしてきました。それは、日本やフィリピン、韓国に対しても同じことをしてきました。
政治問題や領土問題、また水利用の問題などを前進させることを中国がインドの市場に進出する条件にすべきです。そうすれば、中国指導部によるインドへの影響力強化を防げるでしょう。
――習近平氏の任期である2023年までに、アジアの状況はどのように変化すると考えていますか。
チ: 習近平氏は、毛沢東以来の指導者の中で、最も拡張路線を進めてきました。例えば、海のシルクロード構想と新たな陸のシルクロード構想は強い印象を与えました。「時期を伺い、チャンスを待つ」という、トウ小平の名言は、習近平のより野心的で攻撃的な政策で置き換えられました。習近平氏の下で、中国は隣国に対して領土と海洋の主権を主張しながら、貿易と投資を利用して、戦略的に影響力を拡大させてきました。
海のシルクロード構想は、習氏の「海洋で覇権を握ることが、アジアにおいて、中国が覇権を握るための鍵を握る」という信念に基づいて、今、加速しています。アフリカでの海軍基地建造のための交渉から、ソマリア半島における海軍基地建造の交渉に至るまで、習氏は海上覇権を握ることを、中国の力を効果的に広げるための機動力として利用したいのです。
習氏の野望とは、退任までの間に、中国中心のアジアを形作ることと言えるでしょう。
――中国がアジアを支配する状況を避けるために、日本に何を期待しますか。日本は核武装を検討すべきでしょうか。
チ 日本が中国の覇権を受け入れることはないでしょう。日本政府の選択は、イギリスやフランスのように軍事的に独立するか、アメリカの代理として行動するかどちらかになるでしょう。
日本の安倍晋三首相は、日本の安全保障について「積極的平和主義」と言及しました。安倍内閣は、武器輸出三原則を見直しています。また、自衛隊については、1954年につくられてから、日本国内を防衛することすら厳しく制限され、米軍の副次的立場であるように振る舞ってきました。しかし今、日本は、中国軍が領海や領空に侵犯してくることが増えたことにより、軍事的に最前線にいるということに気付いたのです。
日本が再武装する時、高度経済成長が再びやってくるはずです。再武装が、この10年での強力な発展を推進することになるでしょう。
アメリカとの安全保障条約を破棄することなしに日本が再武装すれば、日本のGDPは跳ね上がり、アメリカの安全保障も強固になるでしょう。安倍政権は、その方向に進んでいます。日本の再武装は、第二次世界大戦前の軍事化とは違うものです。他国へと進出するためのものではなく、自衛のためのものだからです。
アメリカ政府が中国と周辺国の紛争に中立であり、そして、中国が2012年にスカボロー礁を侵略し、アメリカがフィリピンを守ることが出来なかったことを考えると、日本はもはやアメリカの安全保障に依存することはできないはずです。
しかし、日本が核武装することは難しいでしょう。核武装すれば、核不拡散条約(NPT)で定められた国際的な規約を破ることになるからです。未来の軍備は、インターネット上、そして宇宙において形づくられるでしょうから、日本は高い科学技術をベースに、インターネットと宇宙における軍事力を高めることに集中すべきでしょう。
――日印関係の強化については、日本とインドの協商、また日印軍事同盟、自衛隊のインド洋派遣、日本の核武装を検討すべき、という選択肢があります。どのようにお考えでしょうか。
チ 日本はまず、国益を増す方向に動くべきでしょう。新たなアジアの秩序は、東アジアの発展とインド洋での覇権争いによって決まります。そこでは中国が、孫子の戦略である「戦わずして勝つ」を実行しようとしています。インド洋は日本にとって重要なシーレーンですし、そこで重要な地位を占めることに尻込みしてはならないと思うのです。
日本とインドが利益を共有し、共に発展しているので、二国間の絆はアジアの急成長する二国間関係となっているわけです。日本とインドがアジアの安定的なパワーバランスにおいて重要な地位を占めているのです。
中国、インド、そして日本を取ってみると、インドと日本の力の合計は、いつも中国よりも大きくなるのです。日本とインドという基軸をつくることが、中国中心のアジア支配を避ける方法です。(了)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『真の平和に向けて 沖縄の未来と日本の国家戦略』 大川隆法著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1464
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