室堂に降り立った時は曇天だった空も、峠に建つ剱御前小舎(別山乗越)に着く頃には青空が広がり始めました。
雷鳥沢から長い長い急登を喘ぎながら登ってきた私は、目の前にドカンと姿を現わした剱岳を前に元気を取り戻すことができました。
ここから先劔沢キャンブ場までは全て下りです。
斜面に付けられた登山道を下って行くに従い目の前の剱岳がドンドン大きくなっていくのです。
下り始めて30分でキャンブ場のテントが見えてきました。
思っていた通りの、素晴らしいシチュエーションのキャンブ場です。
足は疲れているはずなのに、自分の周りに展開する絵のような景色のせいで軽やかに石の坂道を下って行きました。
『どの辺りにテントを張ろうかなぁ… 』
『朝起きた時にテントのファスナーを開けたら目の前に剱岳が聳え立つ場所を選びたいものだ… 』
そんな事を考えながら劔沢キャンブ場を目指したのでした。
管理棟で受付を済ませ、早速1人用テントを組立てはじめます。
風が無かったのも幸いして今夜のお宿は直ぐにできあがりました。
あとはマッタリと過ごすだけです。
私は、キャンブ場から5分程下った所にある劔沢小屋へビールとツマミを買いに行きました。
戻りは登り道で大変でしたが、あとは山を見ながらビールを飲んで寝るだけだと思うと気分はルンルンです。
青空をバックにした剱岳を見ながら飲んだビールの味を忘れることができません。
今まで飲んだ中で一番ウマいビールでした。
私は写真を撮るのも忘れ、ただ夢の中に自分の身を置きました。