剣御前小舎(別山乗越)までは登りが続きます。
行動開始から既に7時間が経過していました。
これから先、雨の中を雷鳥沢まで3時間歩き続けるつもりです。
足が攣らないように、また、岩につまづいたり滑ったりしないよう、一歩一歩慎重かつ確実に足を進めて行きました。
1時間もかからずに剣御前小舎までやってきましたが、雨はますます強くなって行きました。
雨具は着ていても下着まで濡れているのが自分でも分かりました。
<写真は行きに撮ったモノ 帰りの写真は1枚も無し>
『このまま雷鳥沢キャンブ場に行ってテントを張っても、体を休めることはできないだろう… 』
『いっそのこと室堂まで歩き、最終便の高原バスに乗って立山駅まで降りて降りるべきか… 』
『高原バスの最終便は16時30分… 、急げは間に合うかも… 』
『とにかく歩き続け、最終便に間に合わないようであれば、雷鳥沢近くの山荘に泊まるのが最善の策か… 』
沢のように水が流れる登山道を私は歩き続けました。
登山靴の中も雨が入り込んでグチョグチョと音を立てていました。
雨に濡れた衣服が次第に重さを増して行くのが分かりました。
ザックの中のシュラフや替えの衣類は、防水性の袋やビニール袋に入れているので大丈夫ですが、濡れた登山靴は乾燥機でも使わない限り復活させることは不可能な状況でした。
来る時には喘ぎながら登った急登を、帰りは他の登山者を追い越しながら無心で降って行ったのでした。
15時30分に雷鳥沢キャンブ場を通過し、そのままコンクリートで固めた石の階段を室堂に向けて登り始めました。
修行のように辛い時間でした。
室堂のバスターミナルに行くにも、近辺の山荘にたどり着くにも、この階段を登り切らなければ辿り着かないのですから… 。
『私は試されているんだ… 』
階段を登り終えたところに「雷鳥荘」が建っていました。
『このまま室堂まで進むべきか、それとも泊めてもらえるか尋ねてみようか… 』
『果たして、宿泊予約もしていない私を泊めてくれるだろうか?』
コロナ感染症が収束していないこの時期に、予約も無しに泊めてもらえるか不安がありました。
私は何度か「雷鳥荘」の前を行ったり来たりした末、玄関を開けたのでした。
「予約はしていないのですが、泊めてもらうことはできますか?」と、尋ねると…
受付にいた女性は、「大丈夫ですよ。雨の中大変でしたね!」と、返事を返してくれました。
この言葉に私はどれだけ救われたか分かりません。
私は、これまで気を張って歩き続くけてきた緊張の糸がフゥーっと解けていくのが自分でも分かりました。