私はテントの出入り口を開け放ち、テントの中で横たわりました。
テントの開口部から剱岳の凛々しい姿を望むことができました。
疲れた体に500㎖の缶ビールが沁み渡り、私はいつの間にか眠りに堕ちていたのでした。
孫の声が聞こえた気がしてふと目を開くと、テントの白い天井が目の前に広がっていました。
『ココは何処だ?… 家に居るのか?… 』
私はボーっとした頭でしばらくの間白い天井を見つめ、喘ぎながら急登を登ったことや突然目の前に姿を現した剱岳の勇姿が夢の中の出来事であったかのような混乱を覚えました。
家を出て立山駅に着くまでに仮眠はとりましたが、わずか2〜3時間だったと思います。
もしかしたら寝たのは1時間だったのかも知れません。
寝不足の中で室堂から10kg以上のザックを背負い、足を引き摺るようにして急登を登ってきた私の身体は、相当に疲れていたのだと思います。
テントの開口部にある、夕日を浴びてますます “彫が深くなった” 剱岳を確認し、
『あぁー、私は劔沢に来ているんだー… 』
と、我に返った私は長年の夢が現実になっている事をしみじみと感じたのでした。
劔沢キャンブ場には水場やトイレ(2ヵ所ありその内1つはバイオトイレ)も整っています。
キャンブ場よりも高い所い場所にある所から湧水を黒いゴムパイプで引いてきてありました。
天然のミネラルウォーターがパイプの口から常に流れ出ていました。
夕飯はこの水を沸かして注ぐだけのドライフーズの「リゾット」です。
インスタントですがスープもあります。
食後にはカフェ・オ・レも準備しています。
早目の夕食をとった私は、明日の剱岳登山に備えて夕暮れ刻には眠りに着いたのでした。
夜中にトイレに行きたくなり目が覚めました。
ベッドランプを着けて真っ暗な道をトイレへと向かう時、空を見上げるとガスの間から星がキラキラと輝いて見えました。