茨城県の県央部に笠間稲荷で知られる笠間市があります。
今から240年前の江戸安永年間に久野半右衛門が窯を開き、その後、笠間藩の産業保護奨励のもとに焼き継がれて今日の笠間焼が生み出されたのだそうです。
☆ ☆ ☆ ☆
その笠間焼の陶工から、突然に手紙を頂戴したのです。
《 拝啓 新年もあわただしく過ぎて笠間の神社の周りも不景気のせいか十日も過ぎないのに段々静かになってゆく今日この頃です。
さて、私笠間で焼物をやっている者です、ご両人様にはお元気でいらっしゃいましょうか?
今から十五年位前かと思いますが当工房にお出でになられましたね。そして、お世話になっている方の新築祝にと壷をお買い上げ下さり、先様へ送ってくれるように代金を置いていかれました。
早速にと思っていたのですが、お書きになった送り先の紙がとうとう見つからず今になってしまいました。ご両人様の新築祝いにとの心づかいに泥をぬってしまって、これまでずっと生きた心地がしませんでした。
私も焼物をそろそろ止める年令に達し、その準備をしなければと工場の本箱の整理をしていましたら、その紙が裏の真ん中の桟のところに引っ掛かっていたのです。
本当に申し訳なく、今さらながら重ね重ねお詫び申し上げる次第です。
新築祝いにならなくなって恥をかかせてしまいましたが、壷はそのままにしてありますので、近いうち宅急便でお送りいたしますので、遅ればせながらお受け取り下されば幸いに思います。と、同時に私自身、電車で御地に出向いてお詫び申し上げたいと思っていますのでよろしく御願いいたします。行く前にお電話させていただきます。
末筆ながら、何度お詫びしても許せないとは思いますが、どうかお許しになってくださいませ。 敬具 》
☆ ☆ ☆ ☆
文面からすると相当のご年配になられたご様子でもあり、陶工の誠実な心も伝わってきましたので、ドライブがてら取りに行くこととし、電話を入れて出かけました。
工房の所在を大分昔のことで失念したので、笠間駅前の観光案内所に立ち寄り訪ねたところ、住居表示の地図のコピーまで頂戴して詳しく親切に教えていただきました。
その地図を見ながら、城跡公園のある佐白山の山中の曲がりくねった、車がやっとこさ通れる細い道を上りきると、昔見た覚えのある工房に着きました。
老夫婦が出迎えるや否や、腰を落として手をついて、何度も何度もお詫びを繰り返されました。
「いやぁ、過ぎたことはしょうがないから、気になさらないで」
と言って、やっと、手を上げてもらいました。
その場から、送り先であるお世話になった方に携帯電話を入れて事情を話しました。
「年月が過ぎた分、骨董価値が上がったんじゃないか」とおっしゃるので、老夫婦に伝えて、みんなで、やっと笑顔になりました。
お詫びの気持ちにと、陶工の作品である沢山の陶器と「花鳥風月」と書いた額入りの色紙を頂戴して帰途に着きました。
老陶工も「三界無安」から脱し、「花鳥風月」を友として新しい未来に心おきなく身をおく事が出来るのではないでしょうか。
冬晴れの青空が広がり、久しぶりに気分の良いドライブとなりました。
今から240年前の江戸安永年間に久野半右衛門が窯を開き、その後、笠間藩の産業保護奨励のもとに焼き継がれて今日の笠間焼が生み出されたのだそうです。
☆ ☆ ☆ ☆
その笠間焼の陶工から、突然に手紙を頂戴したのです。
《 拝啓 新年もあわただしく過ぎて笠間の神社の周りも不景気のせいか十日も過ぎないのに段々静かになってゆく今日この頃です。
さて、私笠間で焼物をやっている者です、ご両人様にはお元気でいらっしゃいましょうか?
今から十五年位前かと思いますが当工房にお出でになられましたね。そして、お世話になっている方の新築祝にと壷をお買い上げ下さり、先様へ送ってくれるように代金を置いていかれました。
早速にと思っていたのですが、お書きになった送り先の紙がとうとう見つからず今になってしまいました。ご両人様の新築祝いにとの心づかいに泥をぬってしまって、これまでずっと生きた心地がしませんでした。
私も焼物をそろそろ止める年令に達し、その準備をしなければと工場の本箱の整理をしていましたら、その紙が裏の真ん中の桟のところに引っ掛かっていたのです。
本当に申し訳なく、今さらながら重ね重ねお詫び申し上げる次第です。
新築祝いにならなくなって恥をかかせてしまいましたが、壷はそのままにしてありますので、近いうち宅急便でお送りいたしますので、遅ればせながらお受け取り下されば幸いに思います。と、同時に私自身、電車で御地に出向いてお詫び申し上げたいと思っていますのでよろしく御願いいたします。行く前にお電話させていただきます。
末筆ながら、何度お詫びしても許せないとは思いますが、どうかお許しになってくださいませ。 敬具 》
☆ ☆ ☆ ☆
文面からすると相当のご年配になられたご様子でもあり、陶工の誠実な心も伝わってきましたので、ドライブがてら取りに行くこととし、電話を入れて出かけました。
工房の所在を大分昔のことで失念したので、笠間駅前の観光案内所に立ち寄り訪ねたところ、住居表示の地図のコピーまで頂戴して詳しく親切に教えていただきました。
その地図を見ながら、城跡公園のある佐白山の山中の曲がりくねった、車がやっとこさ通れる細い道を上りきると、昔見た覚えのある工房に着きました。
老夫婦が出迎えるや否や、腰を落として手をついて、何度も何度もお詫びを繰り返されました。
「いやぁ、過ぎたことはしょうがないから、気になさらないで」
と言って、やっと、手を上げてもらいました。
その場から、送り先であるお世話になった方に携帯電話を入れて事情を話しました。
「年月が過ぎた分、骨董価値が上がったんじゃないか」とおっしゃるので、老夫婦に伝えて、みんなで、やっと笑顔になりました。
お詫びの気持ちにと、陶工の作品である沢山の陶器と「花鳥風月」と書いた額入りの色紙を頂戴して帰途に着きました。
老陶工も「三界無安」から脱し、「花鳥風月」を友として新しい未来に心おきなく身をおく事が出来るのではないでしょうか。
冬晴れの青空が広がり、久しぶりに気分の良いドライブとなりました。