山頭火のモノローグ
―― へんてこな一夜だった、酔うて別れた妻のサキノを訪ねた、
―― そして、とうとう花園、じゃない、野菜畑の堰を越えてしまった。
今まで越えないですんだのに、しかし早晩、越える堰、越えずにはいられない堰だったが、――
それにしても、女はやっぱり弱かった。――
それから、しばらくは彼女の家に転がり込んでいた。――
家業の酒造りの破産で、故郷の防府を追われるように捨て、
この熊本へ流れきて、二人ではじめた額縁屋の店を、
サキノは細々と守りつづけていた。――
だが、その暮らしも束の間だった。
またしてもわしは、酒ゆえの失態を繰り返し、
この熊本にさえ留まることが出来なくなったのだ。――