イヌホウズキ

 去年までは、初夏の庭にいつのまにか膝の高さほどに生えたヨウシュヤマゴボウが、夏にはあっという間に庭木の高さほどにまで成長して、秋には枯れ、やってきた母が、小さいうちに抜いておけば、こんなにごみにならなくて済むのにと言いながら片付けていたのだけれど、今年はもう根っこがなくなったのか、ヤマゴボウは生えてこなくて、代わりに、その近くから腰の高さほどの別の草が生えてきて、白い、可愛い小さな花をつけた。
 5つ、6つほどの花が一箇所に固まって咲いて、五枚の花びらが星の形に広がっているから、ナス科の植物なのだろうと思った。茎の先端から、次々に咲いていって、茎の根元の方の、花が枯れたあとには、小さな丸い緑色の実が、房みたいに生った。白い花は、午前中、可愛く精一杯に開いて、日が陰る午後には、花弁を閉じた。
 何の花なのか、わからないでいたのだけれど、ある日、実家に行ったときに、本棚の中から、「野に咲く花」という野草の図鑑を見つけた。科ごとに分類がしてあったので、ナス科のページを開いたら、庭の白い花の写真が「イヌホウズキ」という名前でそこに載っていた。別名は「ばかなす」で、茄子やほうずきとちがってちっとも役に立たないから、そんなふうな名前がついているらしかった。毒があるとも書いてあったけど、大量に食べなければ、なんともないようだった。
 図鑑の表紙をめくったら、そこに母の字で、父と私と弟が平成三年の誕生日に母に贈った、ということが書いてあった。そういえばそんなことがあったと思い出した。少し高めの本だったから、私と弟で、小遣いに見合った割合を出し合い、足りない分を父が補ったのだった。母がそうやって書き留めてくれていたのを見て、うれしかった。
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