池田満寿夫の火曜日

 きのう青虫を見つけた交差点を通ったら、判然としないけれど、何かがつぶれたようなあとがあって、見た瞬間、やっぱりまた歩道の上に出て行って轢かれてしまったのかと心苦しく思った。虫の意志(あったらの話だけれど)というのは意外に強くて、私が近くの植え込みの中に転がしたあとも、あきらめずに当初の目的地へふたたび向かって行こうとしたのだと思う。そうだとしたら、私のした行為は、ゴールへ向かって一生懸命進んでいる青虫をスタート地点に戻してしまったということで、結果的に人や自転車に踏まれる危険を増してしまったわけだ。きのうのことを覚えていた息子が、「もうちょうちょになったの」と聞いたけれど、まだ2歳の子供に真実を伝えるのは気が引けたから、「多分まだだと思うよ」と答えた。
 そのまま、京都国立近代美術館に行って、「池田満寿夫の版画展」を見たけれど、銅版画の少しにじんだような黒い線が、ごちゃごちゃになった毛糸玉みたいにもつれあって、そのわけのわからなさがすごいと言えばすごいけれど、正直なところ、凡人にはよくわからなかった。女性の肖像画とか、わかりやすいものでいくつかいいと思ったのもあったけれど、一番印象に残ったのは「虫としての自画像」という絵で、絵自体はやっぱり黒い線がぐちゃぐちゃのわけがわからないものだったけれど、「虫としての自画像」という視点の面白さが気に入った。
 今日は曇りだったけれどそんなに寒くもなくて、美術館の一階のオープンカフェで、ようやく色づいた桜の木を見ながら食べた漬物ピラフは美味しかった。
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