ヨウシュヤマゴボウの思い出

 砂遊び用の大きなダンプトラックの荷台に、どこかから採ってきたヨウシュヤマゴボウの実と水道水を入れて、ひしゃくの先っぽが取れて柄だけになった棒でかき回し色水を作っていた。ずっと立ったままうつむいて作業をしていたから、鼻水が、ぽとんとヤマゴボウの色水の中に落ちてしまった。あわててかき混ぜたら、一滴の鼻水は、紫色の水の中に混じってわからなくなり、私は罪悪感を感じながらも、ほっとした。
 小学1年の夏休み、母の田舎に遊びに行っていたときの話である。母の実家の隣には、小学校6年生の女の子が住んでいて、よくその子に遊んでもらった。1年生から見ると6年生というのはものすごく「大人」だから、彼女のことを尊敬してちょこまかと付き従っていた。
 その彼女が、たぶん、色水を作ろうと提案し、私に作業を任せてどこかへ行ってしまったのだろうと思う。どこかの家の裏庭で、夏の午後、白けたようになっていて、周りには誰もいなかった。さらに鼻水が、数滴落ちて、紫色の水面に二つ、三つ花火のようになって、あわててかき回すと、また消えていった。
 お姉ちゃんがいつまでたっても帰ってこないので、何となく不安になって、狭い路地に出てみたけれど、迷路みたいな道には人の気配はなかった。
 それからあとは、よく覚えていない。おそらくしばらくして、お姉ちゃんが戻ってきて、出来上がった鼻水入りの色水を使って、何かの遊びをしたのかもしれない。おままごとようのコップに注ぎ分けて、私は鼻水のことばかりが気になって、後ろめたい気持ちでもじもじしていたような気もする。肝心の遊びの部分は、全然覚えていないのだけれど、ただ、鼻をたらしながら、一生懸命色水を作っていたことばかりが、なぜか鮮明に、記憶に残っている。
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