大阪弁護士会の会長が以下のような声明を発表しました。
少年の氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真の出版物への掲載(以下「推知報道」という。)の禁止が、18歳以上の少年(以下「特定少年」という。)について一部解除された「少年法の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号。以下「改正法」という。)が本年4月1日施行され、本年4月8日、その施行後初めて、甲府市内で特定少年が起こしたとされる事件が公判請求され、検察庁がその少年の実名を公表した。これに伴い、多くの報道機関により、特定少年の推知報道がなされた。
そして、本日4月20日、大阪府において初めて、特定少年が起こしたとされる事件について、大阪家庭裁判所において検察官送致決定がなされた。本件については、甲府市内で起きた事件と同様、検察庁で捜査されており、今後大阪地方裁判所に公判請求される可能性が高く、その場合、特定少年の推知報道が可能となる。
当会は、2020年9月30日付「少年法適用年齢問題にかかる法制審議会少年法・刑事法部会の取りまとめに反対する会長声明」において、推知報道禁止の一部解除を認める法案には反対の立場を表明している。改正法が成立及び公布された後も、2021年6月28日付「18歳及び19歳の者に関する少年法改正についての会長声明」において、実名報道は当該少年の社会復帰や更生の決定的な妨げとなること、ひいては、結果として再犯可能性を高めることになりかねず、社会にとっても不利益に働く面があることなどから、報道機関に対し、改正法施行後においても、少年の推知報道については、慎重な判断を求めてきた。
少年法は、少年が成長途中の未成熟な存在であることに鑑み、「健全育成」すなわち少年の成長発達権保障の理念を掲げている(第1条)。そのため、改正前の少年法第61条において、少年の推知報道が一律に禁止されてきたものである。本件の少年が「特定少年」だからといっても、少年法の適用を受ける少年である以上、少年法に掲げられている成長発達権は保障されなければならない。インターネットが普及した現代においては、一度報道がなされてしまうと半永久的に情報が消えることはない。推知報道は、少年が将来社会復帰するにあたって、大きな障害となり得るものであり、少年の成長発達権を阻害しかねない。
改正法は、少年の推知報道の一律禁止を、特定少年について起訴された場合に限り解除したに過ぎず、検察庁から実名が公表された場合であっても、報道機関は推知報道をしなければならないというものではない。改正法における衆参両院の附帯決議でも、特定少年のとき犯した罪についての事件広報にあたっては、インターネットでの掲載により情報が半永久的に閲覧可能となることを踏まえ、推知報道については少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないとされている。
そこで、検察庁においては、罪名だけに着目して少年の実名を公表せず、事案の内容、少年の情況などを考慮し、慎重な対応をとることを求める。
そして、報道機関においては、少年法の少年の健全育成の理念を十分に理解し、推知報道が少年やその周囲に与える影響を考慮し、本件を含む特定少年の事件が起訴されたとしても、特定少年の推知報道については、抑制的な姿勢で判断することを求める。
この声明には表現(「報道」を含む。)の自由の優越的地位,つまり,表現の自由に対する制限は必要最小限でなければならないとの大原則(憲法13条),少年法61条はもともと表現の自由に対して過大な制約を課していることへの言及&配慮が全くないのはどうしたことか,と思わずにいられません。残念です。