みなとみらいホールで行われる、新日本フィルの特別演奏会「サファイア」も今日で一仕切りを迎えた。アントンKにとっては、日曜日のマチネコンサートとあって行きやすく、毎年シリーズで聴いている。もちろん、上岡敏之氏の指揮のもと、シーズンの主要プログラムと思われる作品が並び、彼の演奏を聴きたいのなら外すわけにはいかないのだ。
今回は、ワーグナーの作品だけで埋め尽くされた演奏会で、これはよく考えたらまた珍しいプログラムだと言えないか。コンサートの前半に、またはアンコールで序曲等を演奏し、決してメインプロには成り得ない楽曲がワーグナーなのがよくあるパターンの演奏会。つまりワーグナーの作品は、歌手を伴った大掛かりなものばかりで、演奏時間もかなりの長丁場となる。今回のような歌手なしでの演奏会形式はなかなかお目にかかれないのである。
プログラムは、前半、後半と大きな楽曲が2曲ずつ並んでいたが、本場歌劇場で長年仕事を熟してきた上岡氏であり、当然ながら演奏も期待が高まるのが当然の成り行きだった。総じて演奏は、やはり指揮者、オケともに熟成を極めた崇高な解釈で、例によって全体のハーモニーの美しさは、要所要所で際立っていた。特に、管楽器のロングトーンに、溶け込むように入ってくる弦楽器のきめの細かさは、まさに上岡新日本フィルコンビの真骨頂だろうか。いつもの微弱音の多用もあったが、ここぞの時の爆発も上岡流では抑え気味となり、響き重視の解釈が聴かれた。歴代の巨匠たちの録音も聞きかじってきたアントンKだが、たとえ長い楽劇の序曲や前奏曲でも、とてつもないスケールの大きな演奏を耳にしていると、今回の演奏は、繊細ではあるが肝をえぐられる様なスケールの大きさが今一つに感じる。フルトヴェングラーのトリスタンに現れるこの世のものとは思えない世界観。クナッパーツブッシュのジークフリートは、あのテンポと特大のスケールで聴くものを圧倒する響きの世界。何も大昔の、しかもモノラル録音の演奏と比較すること自体馬鹿らしいが、若い頃聴いた命がけの演奏は、何年経っても忘れないようだ。
また今回のコンサートマスターは、尊敬している崔文洙氏ではなかったのが少し残念。もちろん今回のコンマスである豊嶋氏も雄弁な演奏を聴かせ素晴らしかったが、タンホイザーやトリスタンでの崔氏による濃厚で役者冥利の演奏は聴いてみたかったと思うのは当然のことだろう。
新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会サファイア
ワーグナー
歌劇「タンホイザー」より序曲とバッカナール(パリ版)
楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
楽劇「神々の黄昏」ジークフリートのラインへの旅
ジークフリートの死と葬送行進曲
舞台神聖祝典劇「パルジファル」前奏曲とフィナーレ
指揮 上岡 敏之
コンマス 豊嶋 泰嗣
2019年5月12日 横浜みなとみらいホール