キケロ著 大西英夫訳 「老年について」(講談社学術文庫2019)
「無謀は華やぐ青年の特性、智謀は春秋を重ねし老人の特性」という名言で有名なキケロの著である。
キケロ自身は登場せず、主に大カトー(84歳)が語るが、それとスキピオーとラエリウスとの対話の形式を取っている。古代ギリシャ人と現代人とでは平均寿命が違うので、老人といっても、今の老人よりもかなり若かったと思えるが、当時の哲学者や知識人はけっこう長命だったようだ。
カトーの訓話には様々な偉人のエピソードが入混じ、いささか退屈であるが、要は「老人になったから衰えたのではなくて、そもそもそれ以前からの心構えや生き様が悪かったからだ」としている。「学問研究や仕事に常に孜々として携わって生きる者には、老年がいつ忍びよったか分からない」とも述べている。これは、当時のギリシャ人にとっても稀に幸せな環境(人生)の人だけの話だろうね。また、死は苦しみではなく、労苦に満ちたこの世を離れ、先だって黄泉の国に行った懐かしい人々にあえる至福の時であると述べている。これは母親が亡くなったときに、浄土宗のお坊さんがお通夜で話していたのと全く同じ話なので驚いた。老人がこの世を去るのは木の実が熟すれば自然に落下するのと同じだとも言っている。
訳者の大西氏が後書きで詳しい解説をしている。ただ、そこには大カトーが自然(Nature)との結びつきを大事にしている話(15章16章17章)の考察が抜けている。ここでは青々と茂る牧場と並木、大地の稔、ブドウの栽培、農耕、ミツバチの群れなどの記述がある。老年になり書斎にとじこもり思念をこらしているだけではだめで、自然とのふれあいが大事だといっているのだ。これは現代人にも心すべき忠告といえる。
養生訓めいた話は出てこないが、老年とは何かを考える必読本である。
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