<頭が良いと短命になるという生物学的証明>
スイスのフリプール大学のタデウシュ・カベッキーはショウジョウバエを用いて学習行動が強化される選択実験を行ない、それがどの様な特性(形質)をもたらすか調べた。ハエにオレンジとパイナップルのゼリーを選択させるが、一方のゼリーにキニーネを加えておく。数時間でハエは苦いキニーネを避けて、もう一方のゼリーを好む様になる。この学習を3時間行なったのち、選んだゼリーに生んだ卵を取って育てる。このような操作を15代続けると、短い時間で学習できるハエが選抜でき、普通は3時間かかる学習が1時間でできる「かしこい」ハエの系統ができる。
しかし、このハエはその代わりに短命という代価(トレードオフ)を支払っていることが分かった。美人(ハエ)薄命というが賢人(ハエ)薄命となっていたのである。人間でも勉強ばかりしていると、青成ひょうたんのようになって、健康を害することはあるが、単に遺伝的に「かしこく」なっただけのハエの寿命が短縮する理由はよくわかっていない。なにか生理的に潜在ストレスがかっているのか、ニューロンの結線構造におかしな事がおこっているのだろうか?
一方、栄養価の低い餌でハエを育て、集団の中で比較的発育の速い個体を何代にもわたり選抜する。これを先ほどのような学習実験で学習能をみてみると、選抜する前のものより格段に低下していた。この実験段階では餌は普通のものを与えているので餌の影響ではない。この系統は多産になっており、「貧乏人の子沢山」のような家系になっていた。人の場合、そのような家の子の頭は、いいのか悪いのかという統計は無論ない。
参考文献
カール・ジンマー「進化:生命のたどった道」(2012 岩波新書 長谷川真理子訳)
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