大型類人猿(ヒト、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)におけるミトコンドリアDNA配列を比較して得た系統関係と個体変異の程度が下図に示されている。
(川本芳『遺伝子からみた多様性と人間の特徴:生物多様性ななぜ大切か?』(日高敏隆編)昭和堂, 2005 より引用転載)
これを見ると、ヒトでは集団内の遺伝子多様度がたいへん少ない事が分かる。人類は民族によって、容姿、皮膚、眼、髪の色などが著しく違うので意外な事実である。一方、他の類人猿では、熱帯の限られた場所に生息しているのに、遺伝子タイプはバラついている。
これは前に拙ブログ (2020/04/08「パンデミック新時代」)で述べたように、ヒトの祖先が森から平地に降りさらにアフリカからユーラシア大陸に進出した際に、何度かボトルネックが起こったためである。その後、ネアンデルタール人との出会いと遺伝子交流などがあったが、相手は何故か絶滅した。
こういった遺伝子の均一性は、集団における病原体による感染爆発のリスクを著しく高めた。寄生性の細菌にしろウィルスにしろ、侵入すべき相手の体質(遺伝子形質)が同じであるほど、戦術は単純でやり易い。たとえば、ウィルスが細胞に入り込む時の宿主の膜レセプター蛋白が個人レベルで変異が少ない(多様性が少ない)ほうが、寄生者にとっては都合が良い。
これは植物にも適応される原理である。農作物で遺伝的に均一な品種は、病原体にいったん襲われると、またたくまに見渡す限りの畑に広まってしまう。
チンパンジーはアフリカの森の中で様々なウィルスを持った動物に囲まれて生きているが、感染症で群れが全滅したと言う話しはない(この種はヒトによる乱獲が最大の絶滅危惧原因)。これは遺伝子レベルの多様度が高いせいであろう。
ともかく、古代のころから人類の歴史に「パンデミック」が付きものになっているのは、その集団性とともに、このような遺伝子組成が世界中で均一という背景があるからと思える。
追記
植物のエピデミックで、歴史に残る事件は19世紀におけるアイルランドでのジャガイモの疫病である。これの病原菌は、Phytophtbora infestansという真菌であった。これに罹るとジャガイモはたちまち萎れて腐った。当時、アイルランドではランバーと呼ばれる単一品種ばかり栽培しており、この菌によって全てのジャガイモ畑がやられた。政府の対応も悪く、多数の市民が餓死した。”モノカルチャー”の悲劇と呼ぶべき出来事であった。
山本紀夫 「ジャガイモ飢餓」地球環境学事典(総合地球環境学研究所編)P450, 2010
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