悪口の霊長学的起源
群れに警戒声を発する動物の種類は非常に多岐にわたる。前にコクマルガラスの例をあげた(悪口の解剖学: サツマイモとカラスの悪口)。霊長類の多くも警戒声を出して周囲の仲間に危険を知らせる。ニホンザルは、危険を察すると「クアン」という警戒音を発し、仲間はすぐにこれに反応し、同じ声をあちこちで発する。この警戒声が人類の「悪口」の起源ではないかと思っている。「人はどのように進化してきたか」(ロバート・ボイド、ジョーン・シルク著)によると、サルの警戒声は利他行動で、当人は捕食者の注意を引いて食われる確率を増やす。すなわち自分のリスクを大きくするが、群れ全体は生き延びる確率が増大するとしている。おそらく、これは他個体の意識推論的な応答ではなく反射的な反応を生み出していたのだろう。しかし発声遺伝子(体質)を持つ個体になんのメリットもなければ、そのうちこういった個体(遺伝子)は群れから排除されてしまうはずである。そうならなかったのは、このアラーマー(警戒声個体)にトレードオフになる別の「よい事(メリット)」があったからだろう。このような行動は単一遺伝子によって支配されているのではなく、複合遺伝子が関与している。アラーマーは交配相手のメスを獲得し易いとか、餌を見つける能力が優れているとかの性質を同時に持っていた可能性が高い。このような個体が群れのリーダーに進化したのかもしれない。
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