(友利昂著「エセ著作権」合同会社パブリブ)
理系文系を問わず、論文不正(剽窃、盗用、データー偽造)が露見して世間を騒がせることがある。このブログの悪口の解剖学シリーズでも「京都大学の憂鬱(2022/10/25)」、「小説的虚構の論文不正(2020/07/28)]、「日本は劣化しているのか?(2019/11/20)」などで、この問題をとりあげた。論文不正は専門家、学会会員、あるいは一般読者によって激しく指弾され、雑誌掲載が撤回されるだけでなく、著者の学者としての地位も危うくなる。
一方で、まともな論文に対する理不尽なクレームも結構あって、これが事件になることがある。紹介する本書「エセ著作権」はそのような例をいくつか紹介している。その一つが、京大名誉教授の佐伯富氏と元北大教授の藤井宏氏との間で繰り広げた「中国塩政史の研究」事件である。藤井氏が自分の研究の先行先取権が佐伯氏によって侵されたといってクレームをつけ、あまつさえ佐伯氏の学士院恩賜賞受賞を妨げるという行動をとったのである。これは、ついに裁判沙汰にまでに発展する。論争のポイントは「牢盆」(塩を煮るための鍋)の解釈についてのプライオリティーなのだが、著者の友利は、これは藤井氏の無茶苦茶なイチャモンであるとしている。ちなみに、藤井氏は別の事件で北大を分限免職処分を受けた人物である。佐伯氏の方は泰然として学者らしい態度で対応したそうだが、それにして一般市民にとっては、こんなどうでも良い論争で、いわゆる蝸牛上の戦いに過ぎない。東京地方裁判所 平成元年(ワ)5607号 判決は、この訴訟事件に関するもので、インターネットで閲覧できる。この長々とした判決を読むと、バカバカしい蝸牛上の戦いに付き合わされた裁判官に同情してしまうのである。
この他にもある。東京大学名誉教授の原朗が、早稲田大学教授の小林英夫の50年前の著書の内容にイチャモンをつけて、助手の頃の自分のデーターが盗用されたと主張した。これを小林は名誉棄損として提訴し勝訴している。そんなに暇なら、もっとましな論文や著書を書けよといいたくなる。日本の文系はまことに危うい!
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