朝焼けを見るために

神様からの贈り物。一瞬の時。

2006-08-12 15:53:52 | 流水子
私はいつでも、その人に話かけている。朝起きると、
「おはよう、今日に良い日になるといいわね。お天気はどうかしら?」
食事をしていても、
「このお野菜はとても美味しいわ。何を使っているのかしら?今度まねしてみよう。」
そう、一日に何度も何度も、その人に話かけている。決して返事は返ってこない。
車の中、一人になれる時間。最近気に入っている女性のJAZZボーカリストのCDをかけながら、ふと気が緩みかける時。震える唇を押さえながら、
「なんだか泣きそうよ。」
そう呟く。
仕事に埋もれながら、
「私だから、頑張れるのよね。」
と強がって見せる。


聞こえない声が、聞こえる。


朝の家事が一段落つくと、シャワーを浴びる。汗まみれの暑い日も、凍えるような寒い日も、決まって同じようにひとつの区切りをつけ、自分の中の切り替えをするためにシャワーを浴びる。
頭の先から足の先まで、熱い湯をかぶりその日一日に流すであろう泪を、朝その時に流しきってしまう。そして、脱衣所の鏡に全身を映し、今日の私を確認する。鏡の中私と向き合い、
『泣かないで。大丈夫。今日も一日あなたなら頑張れる!』
そう言い聞かす。鏡の中の私は、ニコリと笑い、凛と背筋を伸ばしまっすぐに私をみつめる。
「大丈夫、今日も綺麗だよ。いつも側にいる。」
後ろから、その人の声が聞こえる
全裸のまま、その日につけるピアスをはめる。そして、私の一日が慌ただしくはじまる。一日、泣かないで笑顔で過ごせるように。


誰にも見せることのない私の泪を、その人は知っている。


「せめて夢で逢いたいの。」
ほんの少しその人にあまえてみる。
「夢の中の私達は、いつも黙って並んで歩いているだけ。」
一緒に歩くことなんてできるはずはないのに、夢の中ではずっとずっと一緒に歩いている。こんなにたくさん話をしているのに、夢の中では何も話しはしない。
互いのことが、どうしてこんなに分かり合うことができるのか、いつもふしぎに思いながら、私はその人にただ話しかける。
いつも一人きりで。
そして、その人が答える声は聞こえないけれど、いつもいつでも私の中で感じ続けることが出来る。
「そこにいてね。私がんばるから。」
まっすぐに前をみて、歩幅を大きくとり闊歩する。


聞こえるはずのない声に、今日もまた支えられている。

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