美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

映画「リバウンド」評

2024-04-22 17:24:38 | Weblog

日本では、多くの学生が、中学、高校進学と同時に何かしらの部活動を始めるのが普通で、その うち半分以上が運動部を選択する。逆に、どの部にも所属しない少数派は何部かと聞かれて自嘲気味に「帰宅部」などと答えるが、周囲からもあまり良いイメージは持たれない。一方、韓国は中高で本格的にスポーツに取り組むのは一部の「スポーツエリート」を目指す学生で、彼らの目的はスポーツ枠での大学進学や、その先にある進路の為だ。両国ともに人気のスポーツである野球部やサッカー部がある高校は、日本では4000校以上だが、韓国は60校余り。いくら人口が三分の一であるとは言え、その差は歴然である。
野球に関しては、明治維新後には米国から日本に伝わり、戦前よりプロチームが活動しており、歴史的にも実力面でも日本が先行するのは当然である。しかし、一個のボールさえあればどんな環境でもできる為、‘貧者のスポーツ’とも言われるサッカーは、体格的優位さもあってか六二五戦争(朝鮮戦争)後の混乱期から1990年初めくらいまで韓国が圧倒していた。しかし近年はそのサッカーでもやや日本の後塵を拝しており、韓国ファンは心穏やかではない。Jリーグがスタートし、環境面やサポートが充実してきたことが大きな要因だが、選手の育成面で考えると少数精鋭方式の韓国と、多くが青少年期からスポーツに触れてきた日本との違いを指摘する専門家もいる。
スポーツ(sports)の語源はラテン語のデポルターレ(deportare)で、移す、転換するを意味し、乗馬や狩猟で貴族がストレス解消をしたことが始まりとの説だ。それ故、体を動かすことでの肉体的、精神的な健康を目指すのがスポーツ本来の意義である。一方、私のような怠け者も観戦するだけでも、気分転換になり、時に感動を受けるのもスポーツの一面であり、不思議な魅力である。
今回紹介する作品「リバウンド」は、廃部寸前であった地方の高校バスケットボール部が成し遂げた実話を基にした青春感動物語である。2012年、交代選手もいない僅か6名の選手で全国大会に出場した釜山(プサン)中央高校バスケットボール部の快進撃が、韓国全土に衝撃と旋風を巻き起こした。部員も集まらず、存続も危ういバスケットボール部のコーチに就任したのは、学生時代に全国大会でMVPにまで選ばれるも、選手としては大成できなかったカン・ヤンヒョン(アン・ジェホン)。スランプで自信を失った元スター選手チョン-ギボム(イ・シニョン)、天才と言われながら家庭の事情で怪我した足の手術を受けられずバスケットを辞めざるを得なかったべ・ギュヒョク(チョン・ジヌン)など、才能や熱い想いを持ちながら様々な理由でバスケットを諦めかけた若者をスカウトし目標に邁進していく。CGに頼らず、リアルさと躍動感を追求したチャン・ハンジュン監督は、400人を超えるオーディションからキャストたちに、バスケットのトレーニング受けさせ撮影に臨んだ。選手役の俳優たちの動きが、まるで目の前で実況中継を観ているような迫力と臨場感はその為だろう。
各国が政策としてスポーツを奨励するのは、国民の健康と文化的生活推進が基本である。一方オリンピックのような国際大会への出場は、国威発揚という目的としての意義は小さくない。1936年のナチス政権下のプロパガンダに利用されたベルリン大会は極端な例としても、アジアでは64年の東京大会、88年のソウル大会はまさに国を挙げたアピールの場であった。戦後復興の証しを求め、国民は熱狂し応援の拍手も送った。しかし、冷静に分析すると、オリンピックのメダル獲得に必要な国の予算や負担は意外とコストパフォーマンスが悪いというデータもある。この映画で監督は、国や誰かの為ではなく、ゴールに入らず跳ね返った‘リバウンド’ボールを懸命に奪い、何度も繰り返しチャレンジする姿にこそ、スポーツとその先にある若者の未来があると伝えている。



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