海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

白い壁と傷跡

2009-08-14 17:15:16 | 米軍・自衛隊・基地問題
 壁の一部は切り取られてモニュメントとして飾られている。黒い煤が消えて、白いついたてのように立っている。壁の前に説明版もないので、初めて訪れたり、事故当時の状況を知らない人は、すぐには何か分からないかもしれない。寸断されてわずかに残された壁に何かを語らせようと思うのなら、もっと工夫が必要だろう。
 事故のあと、ヘリのローターによる条痕が走り、黒く煤けた壁をそのまま残そうと訴える学生や職員、市民の声はかなりあった。しかし、大学当局は壁を撤去し、一部を残して破砕した。事故から5年が経って、その正否を論ずる声は、表立っては聞こえない。しかし、多くの人の胸に大なり小なり、今でも燻っている問題であろう。
 壁を残すことによって生じる問題もあったかもしれない。だが、それをあえて抱え込むことで、伝えられる記憶、鍛えられる思索もあったはずだ。壁を撤去、破砕したことを、沖国大の教員、職員、学生はどう省みているのだろうか。



 今では金網に隔てられ、煤の落ちた壁の断片にも、傷跡は残っている。
事故当日、私は東京にいて、テレビのニュースで沖国大への米軍ヘリ墜落事故を知った。そのあとずっとテレビを見ていたのだが、続報が報じられないことにホテルの部屋で苛立っていた。
 翌日の全国紙の扱いも小さかった。その日、朝日新聞の記者に話を聞く機会があった。死傷者が出なかったのでそうなった、ということだった。その記者は沖縄での勤務経験があり、一面トップで扱うべきだと主張したらしいが、賛同を得られなかったという。
 沖縄に米軍基地の負担を押しつけていながら、ヤマトゥの関心などその程度のものか、と改めて認識させられ、苦々しいかぎりだった。

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