紙魚子の小部屋 パート1

節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物のあれこれ、家族漫才を、ほぼ毎日書いています。

檸檬の体験

2007-12-16 23:05:39 | たべもの
 Kちゃんは年齢/性別を問わない人気者で、「いっしょにご飯を食べると楽しい!」からと、クラスを越えて「お弁当を一緒に食べるという約束というか予約」が1週間先まで決まっているらしい。はじめて彼女と一緒にお弁当を食べた女子は、余りの楽しさに驚喜する、という話もきいた。

 「男たらし」や「女たらし」なんてちょろいちょろい、「人たらし」という言葉を私がはじめて目にしたのは、村上春樹の文章でだが、まさにKちゃんは「人たらし」だと感心する。これはしかし、父譲りの天性の気質なのだ。

 H氏には、初対面の人をして「一体こやつは、なにやつ!?」と思わせる不思議で思いもしない方向から言葉の奇襲をかけ、でも超フレンドリーな口調で、相手に笑いの連続技をかけ、笑わせながらケムに巻き、あっという間にすっかり相手の懐に入り込んでリラックスさせ、楽しい気持にさせてしまうという技を持っている。こんな奴が詐欺師になったらひとたまりもないが、幸い真面目に律儀に暮らしている。

 そんな彼が、自転車で昼食をとりに出かけた帰り、道沿いで木から果実を収穫中のおじさんを見つけた。
 ははあ、檸檬やな?と思ったが、念のため「おっちゃん! それ、なんやの?」と問いかけた。

「これはな、檸檬や」と自慢げにうれしそうに答えるおじさん。
「れもん!!? なんて立派な、大きい檸檬なんや! こんな立派な檸檬、初めて見たわ!」と、いつものように、まずは褒めまくるH氏。こういう世渡りのコツを、私は彼と彼の母から、ずいぶん見て学んだ。
「ほっか~?」とまんざらでない、おじさん。
「こんな檸檬で、焼酎飲んだらウマいやろな~~! 焼酎のコップにきゅっと搾った檸檬を垂らしたら、ウマいやろな~」
「そら、ウマいで~。欲しかったら、もっていったらええがな」
内心しめたっ!と思うも、メ[カーフェイスで
「え~~!ホンマに、ええん? そしたら、2個ほどもらいます」
「なんや、そんなちまちまあってもしゃーないで」
と、おじさんは、自転車のカゴにいっぱい檸檬を入れてくれたのだ。

 ここまで書いているうち、ふと内田樹先生の話で、キャラクター的に性別を越境すると異性の友だちがいっぱいできる、というのを読んだ記憶がある。もしかすると異性の友だち、というよりも、筋金入りの「人たらし」になれるのではないか?とも思われる。H氏は内田先生に負けないかもしれない「男のおばさん」である。そういえばKちゃんはキャラとしては「女子のおっさん」だなあ。

 その檸檬を、昨日お料理に使ってみた。キャベツ&キュウリの千切りとトマトの角切りに塩コショウし、オリーブオイルとその檸檬を搾って混ぜてみた。

 なに、この香り!? ふくよかで、さわやかで、清々しくて、初々しい香りは! 今までのレモンはなんやったのか? ャbカレモンは、何の香りやったのか? 
 いままでのレモン体験は、檸檬とは似て非なるものだったのだ。人生半ばにして、やっと檸檬初体験ができたのだと、夫婦で驚く。長い道のりを経て、やっと梶井基次郎の世界にクロスできたのだ。

 なんの変哲もない野菜サラダが、とんでもない御馳走になった夜。それはカボチャが馬車になるくらいマジックな晩餐だったのである。

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