
2009年、ASLOのフランス大会で、地球温暖化と湖沼生態系に関する新しい本を作ることが提案された。
出版社は、オックスフォードにあるWiley-Blackwellだった。
米国カリフォルニア大学デービス校のチャールズ・R・ゴールドマン教授と私が編集を担当することになった。
さっそく執筆者の選定に入ったが、高齢であるゴールドマン教授と日本人である私の二人では、仕事がなかなかはかどらなかった。
編集能力の優れた研究者の力がどうしても必要だった。
そこで長年の友人であるリチャード・D・ロバーツ博士に協力を求めた。
リチャードは、カナダにあるGEMS(広域環境モニタリングシステム)の所長をしており、優れた編集能力を有していた。
2009年11月、最初の執筆依頼を送った。
原稿が集まってきた。
2010年5月、最初の原稿を出版社に送った。
このときのタイトルは
Effects of Global Warming on Freshwater Ecosystems of the World: what can be done to reduce negative impacts?
だった。
2010年7月、出版社から最初の査読結果が帰ってきた。
7人の査読者の意見は手厳しいものがあった。
世界とあるのに、原稿が世界を網羅していない。
淡水とあるのに、河川と湿地帯をカバーしていない。
そういう意見だった。
急きょ、内容を書き換えると共に、新しい執筆者を探した。
2011年3月、修正原稿を出版社に送った。
タイトルも少し変更した。
Effects of Climate Change and Variability on Inland Water Systems of the World: what can be done to reduce negative impacts?
2011年6月、Wileyから査読結果が帰ってきた。
今度は、査読者が3人に減っていた。
やっと出版のゴーサインがでた。
これから各原稿を手直しして、最終原稿を作らなければならない。
編集者がすべての原稿の査読をするのだ。
そのためには、ゴールドマン、ロバーツ、熊谷の三人が集まる必要があった。
2011年10月、世界湖沼会議が米国テキサス州のオースチンで開催された。
タホ湖、グランドキャニオン、オースチンのコースを巡りながら議論しよう。
だが、それは賢明なアイデアではなかった。
会議の合間に出版の話はできなかったし、終わると毎晩パーティでゆっくり議論もできなかった。
それに一部の原稿はまだ提出されていなかった。
どうしても3人が缶詰めになって編集をする必要があった。
いつどこで集まろうか。
12月に日本で集まることになった。
60歳、70歳、80歳の三人が集まるのだから、暖かいところがいい。
ホストを仰せつかった熊谷はふと思いついた。
そうだ石垣島に行こう。
1974年、大学4年生22歳の時に、台湾坊主の観測に出かけたときに上陸したのが最初で最後だった。
青し空と海と、色とりどりのサンゴが目に浮かんだ。
懐かしい。
できれば西表島にも行ってみたい。
半分はアタリで、半分はハズレだった。
2011年12月の石垣は、毎日が豪雨だった。
10日間の滞在のおかげで、編集作業はドンドンすすんだ。
が、観光はほとんどできなかった。
次々に執筆者に厳しいコメントを送り返した。
いくつかの原稿は受理しないことになった。
そsて2012年になった。
どうしてももう一度集まる必要が出てきた。
今度こそ最後の編集会議だ。
アメリカ、カナダ、日本の中間にあって、暖かいところで会おう。
そして、ついにハワイ島で会うこととなった。
2012年2月のことだった。
我々3人とゴールドマン教授の奥さんであるナンシーの4人は、こうして海辺の別荘に参集した。
朝から夕方まで編集作業に明け暮れた。
夜は、料理の得意なゴールドマン教授の手料理だった。
厳しい予算で、お金を節約する必要があったからだ。
3人で協力した楽しいひと時だった。

そしてついに本は完成し、2013年2月に出版された。
最終的なタイトルは
Climate change and global warming of inland waters: Impacts and mitigation for ecosystems and societies.
なった。
会心の一冊だ。
執筆者も、ビッグだ。
少し高いが、ぜひ購入してほしい。
これは今の陸水の研究者が、未来の人々に送るメッセージでもある。
