DALAI_KUMA

いかに楽しく人生を過ごすか、これが生きるうえで、もっとも大切なことです。ただし、人に迷惑をかけないこと。

どうする(63)

2015-01-08 12:29:21 | ButsuButsu


私が初めてスコットランドを訪れたのは、1981年の4月だった。

イースター休暇に合わせて、3人の友人たちと1週間のドライブ旅行を企画したのだ。

当時、私はまだ29歳だった。

イギリスの南端、サウサンプトン大学海洋学部にいた私は、生まれて初めてこの地でレンタカーを借りた。

こうして日本やフランスからやってきた友人たちとともに、勇んで出発した。

北へ、北へ、北へと。

新車だったレンタカーは快調に走り、私たちはとても満足だった。

ウエールズの首都カーディフの城壁を訪ね、オックスフォード、ストラスフォード・アポン・エイボンなどを見学して、やがてスコットランドの首都エジンバラに到着した。

さらに、この地からインバネスを経て、ネス湖へ向かう。

その途上、ふと道の脇にたつ標識に目がいった。

「スコッチウィスキーのテイスティングできます」

何気ない誘い文句に、思わずハンドルを切り、そのまま吸い寄せられるように小道を走る。

突き当たりに、小さな小屋があった。

扉を開けると、売店があった。

そこには見たこともないボトルに入ったスコッチウィスキーが売られていた。

初めて、シングルモルトウィスキーと出会った瞬間だった。

その売店の先に、小さなドアがあり、控えめな看板がかけられていた。

「シングルモルトのテイスティング、1ポンドで4杯飲めます」

当然のようにドアを開け、中に入って驚いた。

棚いっぱいに並んだボトルの数。

おそらく100種類はあっただろう。

「1ポンド払えばどれを飲んでもいいです。どれにしますか」

バーテンダーの問いかけに、答える言葉もなかった。

どれも知らない名前だったから。

「おすすめをください」

まだ飲酒運転がうるさくない時代だった。

4オンスのシングルモルトの味は、私の心の中に灯りをつけるのに十分な量だった。

いま、朝ドラで、「Massan」が放映されている。

「なつかしい人々 なつかしい風景」という中島みゆきの歌にあるような素朴な出会いだった。

http://www.sankei.com/special/massan/index.html

あれから、35年の歳月が経つ。

その間、スコットランドを3回ほど訪問した。

毎回、このスコッチバーを訪ねるのだが、行き着いたことがない。

もうなくなったのかもしれない。

時代は変わって、日本でも多くのシングルモルトが飲めるようになった。

その一方で、スコットランドの片田舎で幻のように登場したこの店の懐かしい思い出。

年をとった私の定かでない記憶の中に、埋もれていくのだろう。

もしも、そしてまだ営業しているのなら、もう一度訪れてみたい。
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