現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

最上一平「あらわれしもの・明日の二人」

2019-11-04 09:31:03 | 同人誌
 過疎の集落の百三、四十年たつ古い家に二人で暮らす、明日九十五才になる(誕生日が一緒です)老夫婦の話です。
 からだの調子が悪い妻のために、家事や畑仕事いっさいを夫が引き受けています。
 ただ、料理だけは味付けがうまくいかず、おしゃべりな妻に時々「まずい」と冷やかされています。
 無口で人付き合いの苦手な夫が、最近元気のない妻を励まそうと、勇気をふるって、同じ集落の人にあんこの作り方を教わります。
 誕生日に、苦心のあんこたっぷりのぼたもちを頬張る二人の姿が印象的です。
 老夫婦、特に夫の普段の生活(草刈りや周辺の草花や山々の様子など)が、簡潔な美しい文章で綴られています。
 時々訪ねてきて二人の暮らしを助けてくれている長男の嫁との関係性の描き方も、過度に感傷的にならずに優れています。
 題名の「明日の二人」も、明るいラストにピタッとはまっています。
 今の児童文学の出版状況では、なかなか出版はされにくいと思われる、こうした文学性豊かな優れた作品を読むことができるのも、同人誌活動の醍醐味のひとつです。
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井出ひすい「一馬くんがやってきた」あける28号所収

2017-04-30 09:16:55 | 同人誌
 作者が、児童文学の同人誌の例会に断続的に発表している「老年」児童文学です。
 主人公のウマばあさんを中心に、マコ兄、善吉さんの老人トリオが活躍する、ユーモアたっぷりの人情話です。
 今回は、母親の病気で善吉さんが預かっていた孫の一馬くんと、彼のために役場に掛け合って作ってもらったブランコをめぐるお話です。
 ブランコ設置を担当した役場のカマキリ係長(マコ兄によると、女房が子どもを連れて出てってしまっているそうです)を含めて、泣いたり笑ったりでホロリとさせてくれます。
 他の記事にも書きましたが、お年寄りに届ける流通の問題を解決すれば、「老年」児童文学は高齢化時代の児童文学のフロンティアになる可能性があります。

老年文学傑作選 (ちくまライブラリー)
クリエーター情報なし
筑摩書房
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ばんひろこ「ひめおどりこそうが ゆれたよ」あける28号所収

2017-04-29 09:52:14 | 同人誌
 女の子のグループの秘密基地(神社の裏の細長い公園)をめぐる話です。
 リーダーの女の子の指令で、その時いなかった女の子の仲間外れ(ごっこ?)が始まり、メンバーは次々とその子の悪口を言わされます。
 でも、その子と仲のいい主人公だけは、なかなか悪口を言えません。
 とうとう、ひめおどりこそうの精(?)に励まされて、主人公はその子が好きなことをみんなに告白します。
 そのために、主人公はグループ内で微妙な立場に置かれます。
 しかし、ひめおどりこそうの蜜を吸う遊びをきっかけに、またみんなとつながれます。
 低学年の女の子たちの微妙な人間関係が、丹念に描かれています。
 特に、ラストでリーダーの女の子を悪者のままにしなかったことが、読み味を良くしています。 

天馬のゆめ
クリエーター情報なし
新日本出版社
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高山榮香「ひまわりの里」あける28号所収

2017-04-29 09:34:23 | 同人誌
 人付き合いが苦手で、生涯独身だった地方公務員の男性が、母親の影響でひまわりを育て、退職後は野球場ほどの広さのひまわり畑に育て上げる話です。
 初めは地元の人たちにも馬鹿にされながら、数少ない理解者と共にひまわり作りに丹精していく姿が感動的です。
 彼のひまわり畑はやがては観光名所になり、鉄道の廃線で寂れていた地元をよみがえらせます。
 人にほめられることを期待せずに、自分の信念を貫き通す主人公は、児童文学にとって大切な人物像(キンセルの「シューレス・ジョー」(フィールド・オボ・ドリームスの原作)など)のひとつでしょう。
 特に、ひまわりの迷路を子どもたちが歓声をあげて走り回る姿は、宮沢賢治の「虔十公園林」の杉林やサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)のライ麦畑を子どもたちが走り回るシーンを彷彿とさせます。

横丁のさんたじいさん (鈴の音童話)
クリエーター情報なし
銀の鈴社
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最上一平「ぴょこぴょこぴょこちゃん」あける28号所収

2017-04-28 09:37:08 | 同人誌
 いつもは目立たないおとなしい女の子が、突拍子もないころびかたをしたのをきっかけに、主人公のこれもまたおとなしい男の子は、その子が気になってたまりません。
 思いきって声をかけてから、男の子は、その子と自分自身に今まで知らなかった別の面があることに気づいていきます。
 小学校低学年の男の子と女の子が仲良しになっていく過程が、ほほえましく描かれています。
 ぴょこぴょこぴょこちゃんというのは、靴下が破けていてとび出していた親指を、女の子が自分で名づけたものです。
 主人公は、そのぴょこぴょこぴょこちゃんに強く惹かれて、ラストで思いきった行動をします。

銀のうさぎ (新日本少年少女の文学 23)
クリエーター情報なし
新日本出版社
 
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倉本 采「スルスルスルッ!」あける28号所収

2017-04-27 10:22:51 | 同人誌
 けんばんハーモニカが苦手な男の子が、楽譜から抜け出した音符たちの頼みをきいて、「心が歌いたくなるとおりに、指を動かして」いるうちに、テストの課題曲を、初めて最後までひくことができるようになります。
 音楽の先生でもある作者ならではの発想や観察がいかされていて、楽しい作品になっています。
 ラストでは、このお話が主人公の夢なのか本当にあったのかは、読者にゆだねられます。

パックル森のゆかいな仲間 ポーとコロンタ (子どものしあわせ童話セレクション3)
クリエーター情報なし
本の泉社
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原 結子「トカゲじゃない、カナヘビだ。」あける28号所収

2017-04-18 08:55:19 | 同人誌
 作者が、同人誌の合評会に断続的に発表している長編の冒頭です。
 身体の弱い主人公の女の子としゃべることができるカナヘビを中心に、日常とファンタジーの世界が交錯する作品です。
 文章や描写が優れていて、上質な作品世界を生み出しています。
 しゃべれるカナヘビが、「不思議の国のアリス」の白ウサギのように、主人公と読者を不思議な世界にいざなってほしいと願っています。

日本児童文学 2017年 02 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店
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