現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

サキ「狼少年」サキ短編集

2019-04-29 09:05:33 | 参考文献
 掌編ながら、十分にゾッとさせられるサスペンス作品です。
 「君のうちの森には野獣がいるね」という友人の不可解な一言から話が始まります。
 そして、主人公の農園に裸の美少年が現れます。
 しかし、主人公はその素性に次第に疑念をいだき、友人に相談に出かけます。
 そして、あの美少年が夜になると狼に変身することを悟ります。
 刻々と迫る夕闇、夜になる前にと懸命に自宅へ戻っていく主人公。
 しかし、間に合わずに悲劇は起こってしまいます。
 その日、彼の屋敷に住む叔母が集めた子どもたちの一人が、帰りに少年に送られたまま、悲鳴と共に行方不明になってしまうのです。
 同時に、少年も衣服だけを残して姿を消します。
 伯母も含めてみんなは、川に落ちた子どもを助けようとして、少年が衣服を脱いで川に飛び込み、自分も流されてしまったのだろうとの美談を信じています。
 しかし、主人公だけは、違う結末(狼に変身した少年に子どもがさらわれてしまった)を信じています。
 真相は最後まではっきりしないのですが、サキの巧みな筆さばきによって、読者たちも主人公同様にゾッとさせられます。
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松田青子「英子の森」英子の森所収

2019-04-28 10:47:35 | 参考文献
 英語を使う仕事にこだわる女性が主人公のファンタジーです。
 登場人物は、それぞれ「森」を持っていて、その中で暮らしているのですが、英子は過保護に育てられていて母親の「森」で暮らしています。
 おそらく「森」は家制度のメタファーなのでしょう。
 そして、英子の母親の「森」と「英語を使う仕事」からの自立が描かれていくように思えたのですが、最終的に両者へ回帰していくようなシーンで唐突に物語が終わってしまったので、よくわかりませんでした。
 「英語ができる」ことよりもそれを使って「どんな仕事」ができるかが重要なことが暗示されていますが、作者の考えが良く定まっていないようです。
 私は外資系の典型的なグローバル企業に長く勤めていたので、「英語はできるが仕事はできない」人たちをたくさん見てきました。
 その一方で、「仕事はできるが、惜しいことに英語はできない」人たちもたくさんいました。
 グローバル企業で働くためには、「仕事も英語もできる」人でないと無理です。
 作者は、どうもそのあたりを実感としてわかっていないようです。

 
英子の森
クリエーター情報なし
河出書房新社
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蜂飼耳「軽くなる日」のろのろひつじとせかせかひつじ所収

2019-04-27 08:45:06 | 作品論
 小沢正の文章で長新太が絵を描いた名作「のんびりこぶたとせかせかうさぎ」に極似したタイトルの本ですが、内容も絵も出来はかの作品にはるかにおよびません。
 タイトルで暗示されているひつじたちの性格の違いがまるで作品に生かされていませんし、作者が狙いとしているであろう二匹の友情もうまく描けていません。
 文章も絵も凡庸で、才能がまるで感じられません。
 
のろのろひつじとせかせかひつじ (おはなしルネッサンス)
クリエーター情報なし
理論社

のんびりこぶたとせかせかうさぎ (ポプラポケット文庫 (003-1))
クリエーター情報なし
ポプラ社
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秘密 THE TOP Secret

2019-04-26 08:29:50 | 映画
 イケメン俳優のオンパレードで作った、グロテスクな映像オンパレードの作品です。
 R12ですが、R15でもいいかもしれません。
 おそらく出演俳優目当ての観客がほとんどなので、無理やりR12にとどめているのでしょう。
 エンターテインメントなのですから、いくら荒唐無稽の設定でもご都合主義のストーリーでも構わないのですが、つじつまが合わないシーンがこんなに続出するのはひどすぎます。
 特に、ラストは無理やり終わらせた感じで、完全に監督の独りよがりです。
 上映時間が二時間以上もかかるような内容の作品ではありません。

秘密(トップ・シークレット) コミック 全12巻 完結セット (ジェッツコミックス)
クリエーター情報なし
白泉社
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椎名誠「『十五少年漂流記』への旅」

2019-04-25 16:59:44 | 参考文献
 十五少年漂流記と言えば、1888年にヴェルヌが書いた少年小説の古典中の古典です。
 私もご多分に漏れず、講談社版少年少女世界文学全集に入っていたこの作品の抄訳は、小学生時代の愛読書のベストスリーに入っていて、それ以来全訳も含めて何度読んだか数えきれないほどです。
 その舞台になっていた南米のハノーヴァー島(少年たちは、自分たちの学校の名前を取ってチェアマン島と呼んでいました)と、園田女子学園大学の田辺眞人名誉教授がそのモデルとして異論を述べている少年たちの出発地のニュージーランドにより近いチャタム島を、探索するというルポルタージュです。
 しかし、この本こそ「羊頭狗肉」というのにふさわしい物でした。
 題名とは関係ない過去の椎名の旅行や思い出話が、全体の90パーセント以上を占め、全く期待はずれでした。
 椎名の結論はここでは述べませんが、それも読む前に予測された範疇を一歩も出ていなく、わざわざ現地まで行った成果はまるでありません
 いくらテレビ番組と雑誌のルポ連載のための企画とはいえ、余りにひどいやっつけ仕事です。
 このテーマは、もしきちんとした研究者だったら、一生をかけて研究してもいいほどの興味深い内容なのに、なんでこんなおざなりなやり方をするのかと、怒りがこみ上げてきます。
 椎名は、テレビ局や出版社にお金を出してもらってどこへでも取材に行ける特権的な立場で、相変わらず世界中を駆け回っているようですが、こんな仕事の仕方であったら一つとしてまともなことはできないでしょう。
 書かれている事柄は、すでに彼の他の本に書かれていることの二度売り、三度売りが大半です。
 これは今に始まったことではないのですが、この本の場合は同じ内容が本の中でも繰り返されているところもあり、とてもきちんと推敲したとは思えません。
 確かに、雑誌に連載中の時はそういうことも起こるかもしれませんが、一冊の本にまとめる時にきちんと書き直すべきでしょう。
 同じ本の中で同じ内容が繰り返されると言えば、故庄野潤三氏のエッセイ集が思い出されますが、あれは八十過ぎのご高齢の時の作品ということで、かえってご愛嬌と思えましたが、この本が出た時椎名はまだ六十代前半なのでボケるにはまだ早すぎます。
 椎名は「十五少年漂流記」を子ども時代からの愛読書としていますが、その名を借りてこんな低レベルの本を出したことは、世界中の「十五少年漂流記」ファンに対する冒涜以外の何物でもありません。

『十五少年漂流記』への旅 (新潮選書)
クリエーター情報なし
新潮社
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早見和真「北新宿ジュンジョウハ」東京ドーン所収

2019-04-24 08:33:40 | 参考文献
 大学を中退した非正規労働者が主人公です。
 就活のノウハウ本をもとに、正社員になるための就職活動をしていますが、なかなかうまくいきません。
 一見、現代の若者が当面している問題を扱っているようですが、作者はその問題をぜんぜんまじめに考えていません。
 これもまた、作者にとっては単なる小説のネタです。
 主人公には、大学に復学するだけの遺産もあり、四年も続いていて貯金もできるバイトもあり、親身になってくれる先輩もいて、すべてを受け入れてくれている恋人もいます。
 これでは、まるでフリーターのパラダイスです。
 独りよがりのロマンチシズム以外に、作者は何を書きたかったのでしょうか?

東京ドーン
クリエーター情報なし
講談社
  
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熊谷奈緒子「慰安婦問題」

2019-04-23 08:19:52 | 参考文献
 特に日本と韓国の間において問題になっている、いわゆる従軍慰安婦について論じた本です。
 「慰安婦問題」を単なる特定のエピソードにとどめずに、「性犯罪」として捉えている点が優れていると思います。
 ただ、保守にもリベラルにも偏らないように配慮しすぎていて(そうしないと、どちらか側から激しくたたかれる恐れがあるのでしょう)、著者自身の意見が見えづらくなっているようです。
 また、学術的にできるだけ意味あるものを目指したせいか、話題が広がりすぎて「慰安婦問題」に対する焦点がぼやけてしまっています。
 この本が出版された2014年6月10日の後に、朝日新聞が「慰安婦問題」についての強制連行に関する重要な記事を取り消したので、「河野談話」を継承していくべきだという本書の主張が揺らいでしまったのは、間が悪かったとしか言いようがありません。

慰安婦問題 (ちくま新書)
クリエーター情報なし
筑摩書房

 
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ジェームズ・ドーハーティ「アンディとらいおん」

2019-04-22 09:25:39 | 作品論
 1938年に出版された物語絵本の古典です。
 主人公の少年アンディと、サーカスのライオンの友情がユーモラスに楽しく描かれています。
 古きよきアメリカのエネルギッシュで牧歌的な雰囲気が、力強いイラストと簡潔な文章で表現されています。
 ハラハラする展開と次のページへうまく繋ぐ文章とで、読者がどんどん読み進める工夫がこらされています。

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神沢利子「赤い靴」いないいないばあや所収

2019-04-22 08:52:35 | 作品論
 しょう紅熱、リューマチ熱、心臓病と次々に病気になり弱っていく一つ違いの姉。
 入学した小学校に、一日も通うことができなませんでした。
 父が樺太に先に行って不在の時に家族に訪れた不幸は、幼い主人公も、上の姉も、母も消耗させていきます。
 はたして、この家族にまた笑顔の日々が戻ってくるのか、読者も心配になってきます。
 幼い日の不幸の影を、作者は過度に感傷的にならずに小さなエピソードを積み上げることによって鮮やかに描いています。

いないいないばあや (岩波少年少女の本)
クリエーター情報なし
岩波書店
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橋本治「海と陸」初夏の色所収

2019-04-22 08:07:52 | 参考文献
 東日本大震災をめぐって、東北から遠く離れた二十歳になるかならないかの男女が会話する話です。
 女性は数回東北へボランティアにいき、男性は何もしなかったのですが、ともに何もできなかった無力さを感じています。
 海に勝てないと感じた女性は唐突に漁師の妻になりたいと話し、男性はそんな彼女にひそかに欲情しています。
 理想的なきれいごとでない等身大の若い男女を描いている点が、優れていると思います。
 ただ、「どうせ若者なんかこんなもの」といった橋本の上からの目線がところどころ(特に何もできないと感じる二人のことを無力ではなく無能だと決めつけている点)に感じられて、読み味はあまりよくありませんでした。

初夏の色
クリエーター情報なし
新潮社
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木下古栗「Tシャツ」金を払うから素手で殴らせてくれないか?所収

2019-04-21 08:58:29 | 参考文献
 ほとんど筋道だったストーリーはなく、まるで思い付きの連続のようにして文章が書き連ねられていきます。
 この作品が成功しているかどうかは疑問ですが、こういった実験的な作品が本になる余地が一般文学にはまだあるのでしょう。
 児童文学の世界でも1990年代までは可能でしたが、今では全く不可能です。

金を払うから素手で殴らせてくれないか?
クリエーター情報なし
講談社
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蜂飼耳「王さまの町」のろのろひつじとせかせかひつじ所収

2019-04-20 08:42:50 | 作品論
 二匹が王さまの住む町へ旅に出る話です。
 二匹は王さまに会うつもりだったのですが、もう少しで食べられてしまうところでした。
 のろのろひつじが思い切ってコックさんに頼んだことで、二匹は逃げることができました。
 ピンチに陥った二匹が助かる場面があまりにもあっけなく、物足りませんでした。
 深刻にならないでほんわかしたムードを狙っているのでしょうが、これではのろのろひつじの良さしか出ていなくて、せかせかひつじの方の個性が生かされていません。
 もう少しお話し作りに工夫があってもいいのではないでしょうか。
 
のろのろひつじとせかせかひつじ (おはなしルネッサンス)
クリエーター情報なし
理論社

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椎名誠「熱風大陸」

2019-04-19 09:05:22 | 参考文献
 1987年に雑誌に連載された、オーストラリアを南から北へ縦断する、作者が得意とする冒険紀行物です。
 このころは、作者はまだ四十代だったので、後年にファーストクラスの飛行機に乗った話を書くような堕落はしていませんが、すでに有名になっていたので周りのおぜん立てに乗っかった形での「冒険」旅行をして、それをシーナブランドで書きなぐって粗製乱造をしていたようです。

熱風大陸―ダーウィンの海をめざして
クリエーター情報なし
講談社
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パリ猫ディノの夜

2019-04-18 08:37:59 | 映画
 話すことのできない女刑事の娘ゾエとその飼い猫ディノの、泥棒のニコとの奇妙な友情を描いたアニメです。
 シックな絵柄とエスプリの効いた会話で、子どもだけでなく大人も楽しめる作品になっています。
 描かれているパリの風景がすてきで、思わず行きたくなってしまいます。
 ややハッピーエンドすぎる気もしますが、こんなシャレた作品が日本の児童文学にも欲しいです。

パリ猫ディノの夜(Blu-ray)
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日本コロムビア
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シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~

2019-04-17 08:45:22 | 映画
 料理の世界での行き過ぎた商業主義や革新志向への風刺をこめたコメディです。
 けっきょく伝統と革新の融合という無難な所に落ち着くのですが、フランス映画伝統のコメディ的な味付けがうまくきいています。
 どこの世界でも伝統と革新のせめぎ合いはありますが、児童文学では1950年代の近代童話から現代児童文学への移行、そして、1990年代の現代児童文学からエンターテインメント全盛への移行と、二度の大きな断絶を経験して、少女小説を除いてはそれまでの伝統は完全に失われてしまいました。
 この状況が立ち直るまでには相当な時間が必要で、おそらく10年や20年では無理でしょう。

シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~[初回版] [Blu-ray]
クリエーター情報なし
エイベックス・ピクチャーズ
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