今をときめく将棋の天才少年について、かつての将棋の天才少年が書いた本です。
長い将棋の歴史の中で、中学生のプロ棋士(プロの四段になること)、つまり天才少年は、五人しかいません。
第一号は、今ではヒフミンというあだ名の方が有名になっている加藤一二三で、18才で順位戦のA級(名人挑戦を競う一番上のリーグ)に昇級して八段になり、「神武以来(このかた)の天才」、つまり日本の歴史が始まって以来の天才と称されました。
第二号は筆者で、21才でなった名人の最年少記録はいまだに破られていません。
三人目は、ご存知、羽生善治で、当時のすべての将棋タイトル七冠(現在は八つあります)を独占し、最近ではそれら七つのタイトルの永世称号(獲得回数や連続回数などでそれぞれ規定されています)を持っていて、永世七冠と称されています。
四人目は、渡辺明名人(2021年現在)で、現在では名人と並び称される竜王を長年保持しました。
そして、五人目が、ご存知のように藤井聡太王位・棋聖で、この尊称もすぐに変わってしまう程次々とタイトルを取っているので、近い将来、名人や竜王になるであろうことは、誰も疑っていません。
そんな藤井聡太を、同じような境遇だった著者でしかわからない視点で描かれていて興味深いです。
特に注目すべき点は、藤井聡太とAIの関係です。
藤井聡太はパソコンを自作するなど、AIにも精通していることで知られていますが、著者の分析では彼の強さはAIで培われたのでなく、幼い頃からの実戦と詰め将棋(彼は詰め将棋選手権を小学校六年生から五連覇しています。最近二年はコロナで中止されているので現チャンピオンです)と、彼の資質(記憶力、判断力、メンタルの強さ、無類の負けず嫌い、そして何より将棋が好きなこと)によるものであるとしています。
それゆえ、藤井聡太の未来のライバルは、将棋を覚えたときからAIを使っているようなこれからの世代、AIネイティブであろうという筆者の予想は非常に興味深いものです。
それと同時に、筆者も含む全プロ棋士に、藤井独走を許さないように叱咤している点も重要でしょう。