第61回日本児童文学者協会賞を受賞した作品です。
シングルマザーの母親(父親はもともと不明)から半ばネグレクトされていて(最低限の生活費は送られてきています)、バイトを掛け持ち(飲食店と個人経営の百均)して、中2の弟(こちらも父親は不明。主人公の父親とは違うかもしれない)の面倒をみている高1の少年が主人公です。
彼の唯一の夢は、いつの日か弟とパンクのバンドを組むことです。
本人はベースがけっこう弾けて、弟はボーカルができます。
後は、ギターとドラムのメンバーが必要です。
ひょんなことから、軽音部の紹介で、野外音楽会に出場できることになります。
一緒に出場するメンバーを探していた主人公は、バイト先の大学生の紹介で、彼の属するサークルのバンドでベースを弾く代わりに、ギターとドラムのメンバーを得られます。
クライマックスは当然音楽会での演奏ですが、それまでのいろいろなトラブル(母親が弟だけを引き取りにくる。親代わりに面倒を見てくれていた母親のバンド仲間の男性との行き違い。ギターを担当してくれることになっていた女子大生との関係(彼女はコミュニケーションが苦手で、実はバンド経験がまったくなくて、一緒に演奏するのは無理だった。そんな彼女に、主人公は淡い恋心を抱いていた)など)を経験する中で、主人公が成長していく姿を巧みに描いています。
作者はもともとエンタメ系の書き手だったようで、ストーリーの盛り上げ方や、キャラの立て方などが非常にうまく、読者を飽きさせません。
そうしたエンタメ性の強いストーリーの中で、ネグレクトやコミュニケーション障害などの今日的なテーマをしっかり描いています。
また、パンクやバンドなどの知識が豊富で深いようで(私はパンクにはそれほど詳しくないので、すべてを正しく評価できませんが)、ストーリーのリアリティを保証しています。