「望郷の詩」 島村静雨
俺は孤独の旅に出て
十五年振りに追憶の町に還って来た。
何の用もなく
誰に会いたい意思も持たず
ただ ふらふらと足が向いて
ふるさとの町にたちどまっている。
そうだ この十五年の間に
大きな戦争があって
この町も戦争で焼けて
昔ここに住んだ人々も散りじりになった。
俺も戦争で
あの血なまぐさい戦場で
身も心も痛み果て
うらぶれた姿で還って来た。
ふるさとも
親しかった多くの友も失って。
俺はおおっぴらに敷居もまたげない家と
生きていても自由に会えもしない肉親と
路で往き合っても昔のように
気安く語れない友のいる
想い出の町に来ている。
━━この町はもう俺のふるさとではなかった。白い風が俺の周囲を吹くばかりだ━━
俺は
追憶だけを温めて
明日はまた 知らない街を旅する。