暗く暑く大群衆と花火待つ
西東三鬼
「数百の小玉がいっせいに上がり、パリパリパリッといっせいに開花する。みんなは船板にはうように身をかがめ、じっと我慢する。そのうち火の粉や燃えかすがザーバラバラバラッと、われわれや防火シートの上に襲いかかる。燃えながらシートを直撃するのもある。これは恐ろしい。もし突き抜ければ、下にあるたくさんの連発が一度に発火し、大火災をおこすことになるからである。はじかれたようにみんなは起き上がり、バケツや火たたきでけんめいに火とたたかう。全部退治すると息つく暇もなく、次の仕掛の準備にかかる。火薬のついたものが露出するので、この間絶対に花火の演出はしないことになっている。連発の終わったものを片づけ、次の台を据えつけ速火線で連絡する。こうしたことを十回くらい繰り返す。暗がりで懐中電燈を照らしての仕事であるから、なかなか骨の折れることであった」〔清水武夫『花火の話』河出書房新社〕