風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『長州ファイブ』

2007-10-01 01:41:51 | 映画

「不思議な話ではありますが、わたくし、来た当時は全てを藩のためと、我が藩のためだけを思うてまいりました。しかし時がたつにつれ、日本ちゅう国家を思うようになりました。国家の近代化を思うようになりました」
「そんとは産業やら軍事やら科学技術の発展ちゅうことごわすか」
「それだけじゃござりません」
「ほんなら?」
「そこに生きる人間自身の文明化ちゅうことであります。文明化されて初めて祖国日本の近代化に役立つ人間になるんじゃと思います」

・・・・・・

我が師吉田松陰先生は言われた。
心というものは活きておる。
活きておるものには必ず機がある。
機は物事に触れるにつれて発し、感動する場面に遭遇して動く。
この発動の機を与えてくれるのは旅である。

・・・・・・

「確かにこの国は文明国かもしれない。でもここには二つの国民がいる。持つ者と持たざる者。そしてその二つは決して交わることはない。あなたは日本には工業がないって言った。でも人を育てればその人が工業をおこす。
ヨーゾー。その人はきっとあなただと思う」


(『長州ファイブ』)


想像以上によくできた、清々しい映画だった。
長州ファイブの面々がそれぞれ個性的で、それでも山尾庸三を軸にストーリーが進むため、混乱せずに観ることができる。
この松田龍平演ずる山尾のキャラクターはとても魅力的(松田君はどんどん演技が上手になりますね)。
西洋文明を全面肯定するのではなく、その光と影を一歩ひいた視点から冷静に描いている点もいい。
ところどころに心に残る台詞も散りばめられていて、観終わった後に元気をもらえるような映画である。

音楽も映像も大変よかったし、ものすごく星5つつけたいところなのだけど、ひとつだけ気になった点も。
それは、幕末の複雑な政情に関する説明があまりにも少なかったこと。
言うまでもなく、当時幕府の開国政策にどこよりも強く反対し攘夷を主張していたのは、この長州藩である。
そして「日本の未来のために刀を捨てたサムライ」は、薩長だけでなく幕府にもいた。たとえば戊辰戦争で薩長と最後まで戦うことになる榎本武揚などは、長州ファイブと全く同時期に派遣留学生としてオランダへ行き、世界的視野を身につけ、最先端の造船技術、国際法そして封建制の問題点などを同じように学んでいるのである。
しかしその辺りの歴史を知らない人がこの映画を観ると「(攘夷とか討幕とかよくわからなかったけど)文明に無頓着な古い考えの幕府と、それを倒し西洋技術により日本を文明化へ導いた薩長」という誤った図式が頭に残ってしまうような気がする。
「藩意識からの脱却」を描いているとはいえストーリー的に政情は無視できない以上、そういう背景をもうすこしきちんと描いていれば、より深みのある映画になったように思う。

もっとも、気になったのはその一点のみで、素晴らしい映画であることにかわりはない。
今私達が当たり前のように享受している海外渡航の自由。それはほんの150年前には命がけの行為だった。
彼らのことを思うと、誰もが自由に海外へ旅行し、留学することのできる私達はいかに恵まれているのかということがわかる。
この映画を観た後に海外へ行くと、これまでよりはるかに充実したものを得ることができるだろう。

長州藩英国密航留学生については、こちらもご覧ください^^

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