1981年2月――― <<シンクレア>>
雨が上がった。正午の遊覧船が通過して何分か経つ。テームズはワッピングで北へ折れ、ライムハウスで再び南へ大きく蛇行している。その辺りの岸に立つと、タワーブリッジがわずかに見えた。・・・ウォーターサイド・ガーデンと道路一つ隔てた空き地は、テームズ沿いに並んだ倉庫やアパート群が唯一途切れているところで、芝生と仮設のベンチがあり、コンクリートの手すりごしに、テームズが眺められるのだった。すぐ左手には、水上警察の桟橋が一本延びていて、そこにはランチがつないであることもある。対岸は、バーモンンゼーの倉庫郡。空き地の両側が建物で挟まれているので、川面から吹き上がってくる風はいくらか緩く感じられ、時間潰しの場所としては、ジャックの気に入っている場所の一つだった。ジャックはベンチに腰を下ろし、テームズを眺めた。・・・
1989年2月――― <<ノーマン>>
・・・曲がりくねった裏小路を走る間に、ジャックは<<伝書鳩>>を見失い、ひとりでフェンチャーチの裏通りまで逃げた。ペチコートレーンの露店街から大して離れていなかったが、騒ぎはすでに遠かった。人けのないさびれた駅近くのアーチの下で、一人の浮浪者とすれ違ったジャックは、身を翻すやいなや男の背にハンドガンのグリップの一撃を加えた。倒れた男のジャンパーをはぎ取って、それに自分のセーターの腕を通しながら、また少し走った。十五分後、ジャックはテームズ沿いに出て、ワッピングのウォーターサイド・ガーデンまで来ていた。昔、お気に入りの居場所の一つだった。八年前と同じく道路は今だに工事中で、新しく建ったアパート群には人影もなかった。
(高村薫 『リヴィエラを撃て』)
タワーブリッジ
タワーブリッジからワッピング方面を望む。
写真左に遊覧船が見えます。
フェンチャーチ・ストリート駅付近
ジャックのお気に入りの場所は興味あるけど、ワッピングまで行くのはちょっと怖いし面倒という方(=私)。
ワッピングより少しだけ西のタワーブリッジがオススメです。
観光地なので川沿いに散策路やベンチが整備されていますし、ワッピングからと殆ど同じテムズの眺めが楽しめます。テートモダンやビッグベンあたりから眺めるのとは一味違う、のんびりとしたテムズ。気持ちいいですよ~。
タワーブリッジ~フェンチャーチ~聖ボトルフス教会~ペチコートレーン~リヴァプールストリート駅までは徒歩でまわれます。
ステップニー・グリーンもすぐ近くですが、徒歩だとすこしきついので、地下鉄を利用したほうがいいです。シンクレアと同じ道を歩きたいという方は、歩いてもいいですが(笑)。
交通の便がいいので、半日もあればイーストエンドのリヴィエラ関連の場所は全部まわれちゃいます。観光地ではないロンドンが見られて面白いですよ^^
ただ、イーストエンドにかぎらず、観光地以外の場所を訪れる場合は治安には充分にご注意くださいね。
★タワーブリッジ Tower bridge :地下鉄District lineのTower Hill駅下車すぐ。