風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

上橋菜穂子 『闇の守り人』

2011-02-11 19:59:20 | 

 「バルサ…、おれは夢をみながら、考えてた。おれが、たどってきた道の、どこかで、別の道を選んでいたら、もっとよい人生が、あったのだろうか、と。……答えはな、……もう一度、少年の日にもどって、人生をやりなおしていい、といわれても、きっと、おれは、おなじ道をたどるだろうってことだった。
  おれは、これしか選べないっていう道を、選んできたのさ。――だから、後悔はない。……たったひとつ、悔いがあるとすれば、それは、おまえを自由にしてやれなかったことだ。おまえの中にある、重い、おれの影を消せなかったことだ」

(上橋菜穂子 『闇の守り人』)

守り人シリーズ2作目。
何度も言っちゃいますが、この作家さんの本の素晴らしいところは、闇が本当にきちんと描かれた上で希望が描かれているところだと思います。
上の言葉はバルサの育ての親であるジグロが死の間際に言う言葉ですが、たとえばこの部分だけを読むと綺麗事に思われなくもないぎりぎりの感じが、物語のラストで「バルサさえいなければ」という思いを何度も押し殺して生きてきたジグロの憎しみを描くことで、それをずっと傍で感じていたバルサの怒りを描くことで、そして、それでもみぞれの降る夜に泥の中で幼いバルサを抱きしめて眠ったジグロのぬくもりを描くことで、この言葉に一気に深みが増して、読んでいる私の胸を突く。
ストーリー展開が『狐笛のかなた』と重なる部分が多く途中までは少々微妙な気分だったのですが、最後は上橋さんの強い筆力にそんな小さな不満はふっとんでしまいました。
こういう本に出会えるたびに、やっぱり生きられるうちは生きていないと損だな、と思う。

 哀しみをかかえながら――苦しみに、うめきながら――ジグロは、それでも、ずっとバルサをかかえ、抱きしめて、生きてきたのだ……。

※写真:今年の元旦、北鎌倉建長寺の半僧坊にて。