風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

芸術祭十月大歌舞伎 夜の部② @歌舞伎座(10月7日) 

2013-10-14 23:38:32 | 歌舞伎




【川連法眼館】


仁左衛門さんの『すし屋』で洪水の涙を流した後は、30分間の幕間を挟んで、菊五郎さんの『四の切』です。
あらためて、一階席はええですなぁ~。この演目は舞台が綺麗だから見応えある~。
隣のおば様方が「多少高くても、舞台に近い方がいいわね~」と話しておられましたが、そのとおり。ただ“多少”じゃないんですけどね^^;

さて、『四の切』。
この演目を観るのは、7月の猿之助につづいて2回目です。
前回が澤瀉屋型、今回が音羽屋型。
って、、、、、音羽屋型もケレンが満載なんですね…
菊五郎さんが演じられると知った時点で「音羽屋型=ケレンが少ない」と思い込んでいた私は、かなりビックリいたしました。
たしかに宙乗りがなかったり(もっとも私が観た猿之助も巡業だったので宙乗りでなく桜の木で、今回と同じ)、狐が天井から落っこちてこなかったり、最後の追手の人数が少なかったりと多少の違いはありましたが、素人目には「型」の違いというほどの差は感じませんでした。
それもそのはず。歌舞伎美人によると現行の澤瀉屋型は『当代猿翁が、従来の澤瀉屋の型をベースにケレン味を最小限に抑え、狐の親子の情愛を描くことに重点を置いた音羽屋型を取り入れながら、上演の度に工夫を加えました。』とのこと。
猿之助が演じている四の切も、純粋な澤瀉屋型ではなく音羽屋型を取り入れているから、この二つはよく似ているのですね。

けれど私は今回、猿之助の狐からはもらうことができなかったものを、菊五郎さんの狐からいただくことができました。
素直に「可愛い」と思える愛嬌、嫌味のないケレン、あざとさのない狐言葉。観劇後の後味がよかったのは、断然今回の方でした。
猿之助はせっかく素晴らしい素材と身体能力とガッツを持っているのですから、この菊五郎さんの「演技の自然さ」をもう少し見習ってほしい。。。ニンに思えるだけに本当にもったいない。。。(ちなみに猿翁や右近さんの狐忠信は好きです。映像で見ただけですが)

前半の忠信。
これはなんといっても菊五郎さんですから、安心の演技でございました。まあ立派なこと、立派なこと。立派すぎるくらい、笑。

後半の狐
登場前から、すでに階段がゴソゴソ(ちなみに友人が観た日は、階段から一瞬手が見えたそうな^^;)
そしてクルンッと登場。
クルンッと・・・・・・・・クルン・・・・・
・・・・・。
・・・階段の上になんかのっかってる。。。。。
行き倒れのクマさんみたいのが。。。。。
き、狐の登場シーンってこんなだったっけ(混乱)??たしか猿之助はハイ、登場!みたいなポーズをキメてなかったっけ??それともこれは音羽屋の型??
気のせいか客席にもびみょ~な空気が。。。
あ、起きた、クマさん。。。^^;

にしても―――


可愛い・・・。


白状しますと私、キモい狐を覚悟していたんです(スミマセン)。
だけど、可愛い!!!
さすがは菊五郎さんだ。ただの粋な太ったおっさんじゃなかった。いや、もちろんそんなことは百も承知でしたが、それでも狐はアレだろうと思っていたのです。
体を嬉しげにゆすりながら階段を上るキチュネ・・・・・やば、萌える・・・・・。なんだ、このものすごいインパクトの萌えキャラは・・・。
あの感動の涙の『すし屋』の直後に、よもや同じ舞台でこんなイキモノを観ることになろうとは・・・。やはり歌舞伎は侮れない・・・。

欄干を乗り越えるときは「よっこらせ」だし、欄干渡りも数歩で終了だし(でもあの高さから飛び降りた!すごい!でも足は大丈夫!?)、垣根に飛び込むときは水車に掴まって「はい回しますよ~」だし、クルクル回転は「ぐーる、ぐーる」だし、立ち回りではタテさんの背中に乗りきれず前方の床へドテンだし、もしこれが歌舞伎でない普通の演劇だったら、金返せな「出来」なのかもしれません。
でも、歌舞伎の「出来」って違いますよね。
菊五郎さんという歌舞伎役者がもつ、積み重ねてきた芸の空気というものが、匂いというものがあるのですよ。それが舞台に広がっているのですよ。他の人には代わりになれない狐忠信がそこにいるのですよ。もちろんそれがあればなんでもいい、とは申しませんが、それって歌舞伎ではすごく大事なことなのだな、ということを強く知ることができた夜でした。

とはいえ、狐の前半はやはりケレンでお気持ちがいっぱいいっぱいだったのか鼓へ向ける情が薄めで、この部分は千穐楽にどうなっているか楽しみ。
そして、ラスト。
静から鼓をもらって、歓びを全身で表す子狐。菊五郎さん、ニッコニコ!!!
もう心から「よかったねぇ、キチュネ*^^*」って思ってしまった。たぶん客席の皆さんもそうだったのではないかな。
あの大きな拍手は、「菊五郎さん、よく頑張りました」の意味合いだけでは決してなかったと思います。

最後は上手の桜の木に登って(自動で上がって)、幕。

菊五郎さんは、やっぱり粋でした。
ものすごく頑張っておられるのだろうし、汗もいっぱい掻かれていて、あのいつも飄々としている菊五郎さんが……;;という感も確かにありましたが、それでもやっぱりいつもの「菊五郎さんな空気」がある。なんかそんなところにも感動してしまいました。
歌舞伎は「お遊び」だと言い切る菊五郎さん。
そんな菊五郎さんが、私は好きです(ああ、私が仁左さま以外に告る日がくるとは…!)

時蔵さんの静御前。
情は控えめですが、綺麗で品のある静でした。
隣のおば様方も「時蔵、綺麗だったわねぇ~」って喜んでた^^
でも菊五郎さんを見守る目が、すこしだけ心配そうに見えてしまった。。

梅玉さんの義経。
もう何も言うことはないです。完璧な義経役者。少し浮世離れした空気があり、気品があり、出過ぎない情もあり。
最後に鼓を狐に与えるとき、静に「そなたから渡す方が狐も喜ぶだろう」というような表情を微かにみせるのがとてもよい。

あとこれは本当に観る人の好みだと思いますが、最後の立ち回りも私は今回の方が好きでした。
立ち回りが派手で長いと、二重舞台の上に突っ立っている義経と静がなんだか間抜けですし、それまでのお話の感動が次第に薄れてきてしまうので。。

そんなこんなで、大きな満足をくれた『四の切』でございました。
仁左衛門さんの『木の実』『すし屋』といい「今月の夜の部は豪華だな~♪」とほくほくして家路についた私。
数日後に観る昼の部で、これまた予想を超える感動をもらえることになろうとは、このときは知る由もございませんでした。
歌舞伎座新開場杮落しの芸術祭十月大歌舞伎。
いやぁ、スゴイです。

※10月25日千穐楽夜の部の感想

東京新聞インタビュー(菊五郎)

歌舞伎美人インタビュー(梅玉)

※菊五郎さんのコメント(音羽屋HPより)
2013年10月7日
3ヶ月間のお休み明けの今月10月は歌舞伎座に出演しております。
歌舞伎座での「通し狂言 義経千本桜」は平成19年以来6年ぶりとの事です。
昼の部は、「道行初音旅」に出演しております。
やはり、スッポンからの”出”は一番緊張致します。主従の関係を心しながらも、前半の重い空気を変えて道行は華やかに、そして、皆様にうきうきして頂けますよう演じております。昔は型から役に入っておりましたが、今は心から役に入り体が後で付いてくるという感じです。
夜の部は「川連法眼館」に出演しております。
変わり目変わり目をはっきり演じるように心がけておりますが、なにしろ、とにかく体力のいるお芝居です(笑)。
人間の忠信の芝居を大切に演じ、狐に繋げていき…親子、主従、兄弟の「愛」を表現したいと思います。
過ごしやすく、お出掛けしやすい季節となりました。
是非、歌舞伎座に足をお運び下さいませ。