風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『マシュー・ボーンの白鳥の湖』 ソワレ @東急シアターオーブ(9月9日)

2014-09-10 21:47:21 | バレエ




本公演の初日に行ってまいりました~。
映画『リトルダンサー』をこよなく愛する私ですが、この作品を生で観るのは今回が初めて。
不思議と、観終わった後にとても幸せな気持ちになれた舞台でした。
ラストは切ないですが、本家白鳥と同じく、こちらも決して完全な悲劇ではありませんよね。
今回ザ・スワンを初役で踊ったABTプリンシパルのマルセロ・ゴメスは、こんな風に言っています。

「特にザ・スワンと王子の間の情感の描かれ方が素晴らしいと思う。王子にとってスワンは天使のように美しい生き物で、閉じていた心を開放し、愛することを怖れないでいいのだと教えてくれる存在。僕はこの作品を観て、マシューから、自分の心の中の何かを覚醒させてもらった気がする」(Japan Times

「彼らは男性とか女性とかでは無いのです。もはや人間では無く彼らは白鳥という生き物。そしてそこには彼らが何であるかは関係なく【愛】がある。それこそが伝わるべきことなんだ」(Dance Cube

王子の人生は決して幸福とは言えないものだったけれど、それでもザ・スワンという深く愛する(という言葉さえ軽く感じるほどの)存在と出会い、たとえ死という形であっても永遠に結ばれることができたのだもの。彼の魂は幸福なのではないかしら。

今回私が観たマルセロ・ゴメス&クリストファー・マーニーによる白鳥は、以前映像で観た1996年のアダム・クーパー主演の白鳥とは、ストーリー解釈が全く異なるように感じられました。
アダムの白鳥を観終わったときに感じたことは、「白鳥は王子の心が生み出した存在なのだな」ということでした。演出も演技もそういう解釈になるように作られていましたし、実際当時の彼らのインタビューを読むとそのように語っています。
でも今回は、その解釈で見ると違和感があるのです。主役二人の間にはっきりと(恋愛感情に限りなく近い)愛が見えているからです。もちろんゴメスが言っているように、彼らが男だとか女だとかは関係なく。もし白鳥が王子自身が生み出したものであるなら、そういう相手との間にその種の愛が生まれることはないように思うのです。どちらも自分なのですから。でも今回は明らかにそれがあったので、「ああ、今回の白鳥は王子の想像の産物ではないのだな」と感じました。もちろん私見ですヨ。

キャストは、とにかく王子役のマーニーが素晴らしかった 役になりきることができるダンサー。
この王子だったら、スワン役にどんなダンサーが来ても感動する舞台になるのではないかしら。
今夜は白鳥のゴメスが初役初日のせいか多少ぎこちなさが見られたのですが、そんなときに数年ぶりとはいえ役を完全に自分のものにしているマーニーがとても頼もしく、一見少年のようなのに良い意味で落ち着いていて。彼のそんな部分が緊張気味のゴメスを静かにサポートしているように感じられ、それが舞台に不思議な効果を生み出していた気がします。素敵なダンサーですね。
彼の王子は、「王子って本来はこういう性格の子なのだろうなぁ」というのが伝わってきました。ただ親の愛に飢えている孤独な子というだけではなく、知的で芯がちゃんと通っていて、だからこそ悩み苦しむ。そしてそんな彼だからこそスワンも惹かれたのだろうな、と。それが伝わってくるのは、心身両面におけるマーニーの表現力が素晴らしいからです。スワンクバーでのヤケ酒&クスリをやっちゃうところも(少年らしいだけじゃなくて色気もある!)、バーを叩き出された後の孤独と絶望も、公園でのザ・スワンとの涙が出るほど美しいアダージョも、白鳥達と踊るときの楽しくて仕方がない高揚感も、白鳥達が消えた後の晴れやかなソロも(餌やりの女性にキスして遺書をパッと散らすところ、大好き!)、どれも絶品。
この作品ってザ・スワンが王子を振り回しているようで、何気にザ・スワンも同じくらい王子に振り回されているんですよね。そんな一種の危うさのようなものが、ザ・スワンという役柄を一層魅力的にしている。そんな王子とザ・スワンの関係は、互いが互いを補い合っているような、片方が存在するためにはもう片方が絶対に必要であるような、そんなところがあるように思います。
そういう雰囲気が今夜の二人にはすごく出ていて、たぶんこれからゴメスが回数を重ねていったら彼らの間にまた違う関係が構築されるのかもしれませんが、今夜の二人のそんな雰囲気もとってもよかったのです。
たぶんゴメスはマーニーに感謝してるんじゃないかな。あんな風に王子を踊ってもらえたら、ザ・スワンはすごくやりやすかったと思う。カテコでもマーニーに思いきり抱きついてたし
ちなみにマーニーはこの日が誕生日で、35歳になったそうです。ゴメスももうすぐ35になるそうで、王子と白鳥が同い年って、なんかいいですね(*^_^*)

前半ぎこちなさがあったゴメス白鳥も、二幕後半からはさすが!!うっまいなぁ~~~。想像していたよりずっとエレガントで品のある踊りをするダンサーだった。
バレエって演技ももちろん大事ですが、すべては基本の技術があってこそですよね。それが無いとバレエを観る歓びって絶対にもらえない。ゴメスに劣らず綺麗に踊るマーニーと絡みまくる二幕は、いつまでもいつまでも見ていたかったです。
王子はザ・スワンと出会って、初めて本当の愛と自由を感じることができたのですね。長い間ずっと、望んでいたもの。
そしてザ・スワンもたぶん、それまで愛という感情は知らなかったのだと思う(もしかしたらガーディアンとして王子を見守ってはいたかもしれないけれど、直接触れ合ったのは初めてですから)。
そんな初恋に戸惑っているようなピュアな二人(一人と一羽か)の距離が少しずつ狭まっていく過程は、愛おしくもとてもセクシーで、王子が白鳥の体に触れようとして、初めはふっと体を引いていた白鳥がやがて触れるのを許すところなんか、すごく素敵。
この世のものとは思えないほど美しくて色っぽいこの二幕、あと一万回くらい観たい。

三幕のゴメスのストレンジャーは、イヤな男ではあるのだけど、王子に酷くしきれていないというか、ちょっぴり優しそう笑。
でも前幕の二人があまりに愛に溢れていたから、その記憶が王子の中と同様に観客の中にもあるので、やっぱり酷い男には見える。そういう意味でも二幕は大事ですね。程よいセクシーさと品があって、私は好きですこのストレンジャー。鞭演出はアホっぽく見えるから好きじゃないのだけど、今回もあった(もとはアダムの提案だそうで・・・)。女王と踊る場面は、華やかでキレがあって余裕もたっぷりで、見惚れてしまいました。やっぱり女性と踊るのは慣れてるんだな、と思った笑。
マーニーも、相手の体をふわっと簡単に持ち上げていて、小さい体なのに抜群の安定感。どこにそんな筋肉がついてるのかと凝視してしまった。ダンサーの体ってすごいわぁ。
王子とストレンジャーがタンゴを踊るところは、気付いたら息を止めて見つめておりました。ドキドキ。

四幕。
マーニー王子のおかげで最初からずっと王子に感情移入しまくりで観ていたので、四幕は・・・・・・泣
ゴメス白鳥も王子への愛1000%で、王子を守ろうとする想いが全身から溢れてて・・・・・・泣泣泣
ゴメス、さすがこの場面が好きと言っていただけあって素晴らしかった。
もうザ・スワン&王子は切ないし、スワンズは迫力だしで、泣いたりワクワクしたりと大変。
本家でもスワンズがロットバルトを追い詰めていくところがゾクゾクワクワクして大好きなんだけど、マシュー版も素晴らしかった!追い詰められるのはロットバルトじゃなくて主役二人ですけど^^; ここは映像で観るのと生で観るのとでは迫力が全然違いますね。この場面をもう一度観たいがために、チケット買い足したい。
そしてどんなバージョンでも毎回感心するのは、やっぱりチャイコフスキーの音楽の偉大さ。これほど様々なバージョンの『白鳥』が生み出された理由がよくわかる。こんな美しいメロディだったら、誰だって自分の『白鳥の湖』を作りたくなっちゃうよね。今回は生演奏ではありませんでしたが、前方席だったせいか、音は平たいものの意外とちゃんと迫力を感じられました。

さて、ストーリーの解釈についてあーだこーだと考えるのも、この作品の楽しみの一つですよね。
で、今回のペアのラスト。
私の解釈では、ザ・スワンでも守りきれないほど王子を蝕む闇が(内的にも外的にも)大きくなってしまい、白鳥達は衰弱した王子を獲物として容赦なく襲おうとする。そして王子を愛してしまい守ろうとするザ・スワンは白鳥達のリーダーである資格を失い、彼らを邪魔する者として殺されるのではないかと。王子が白鳥達に囲まれていく様子は、闇に飲み込まれそうになっている王子の精神状態も表しているのだと思います。白鳥ももちろん現実の白鳥とは違い、この物語ではもっと抽象的な次元の存在。
美しく純粋な愛や自由の象徴がザ・スワンなら、ストレンジャーはこの現実世界の全ての闇の象徴? 不安定な王子の心をずたずたにした決定打を与えた人。
ザ・スワンは王子のただ一つの光ですから、ザ・スワンが死んだら王子も生きていけません。それに彼と共にいることが王子の幸福ですから、ザ・スワンの後を追うのは王子にとって幸福なのだと思う。
というようなことを一週間くらい尾を引いて考えてしまうのがこの作品の恐ろしいところですね^^;
そして次に観るときはまた解釈が変わったりして、スパイラル。すごい中毒性です。。

カーテンコール。
最初はゴメス&マーニーの二人で。舞台中央でのがっつり抱擁が感動的でした。カメラをバッグから取り出す前だったので、マシューさんがツイに写真をアップしてくれて嬉しい♪
カテコは写真撮影OKでしたが、やっぱりキャストに拍手を送りたい気持ちが一番だったので、あまり撮れませんでした。でもちょっとだけお裾分け^^




10列目の席だったので後ろの様子はわからなかったのですが、公式ページによると全席スタオベだったそうで。このとき↑のゴメスがニッコニコで可愛くて、一度仕舞ったカメラをまた取り出しちゃいました笑
十数年越しの夢が叶った初日、おつかれさま!!



ガールフレンドの子(一番右)もチャーミングで良かった。王子よりお姉さん系だったので、カミラ夫人とチャールズ皇太子を連想しました。
あと、一羽一羽の白鳥さん達!みなさんそれぞれが個性的で美しくて不気味で純粋で最高でした。もし彼らがこれほど魅力的でなかったら、どんなに主役二人が素晴らしくても、こんなに感動できなかったと思う。ブラボー!


開演前の幕。一羽のスワン。



パンフにほとんどマーニーの写真がなくて残念に思っていたところ、公式ページに一杯載せてくださって嬉しい!お誕生日パーティーの写真まで^^
パンフは2000円で高かったけど、グレーがかった濃紺のグラデーションの表紙がセンスよくて素敵です。
そしてパンフで知ったのですが、白鳥達のいる池ってSt James' Parkなんですね。じゃあ王子の住む宮殿はバッキンガムか。
とわかれば、最後にこちらの写真もどうぞ。



St James' Parkの池です。
ほとりにいるのは2羽のブラックスワン。
夜になると人間に姿を変えるかも・・・



バッキンガム宮殿の窓!
そういえばラストの王子の寝室シーン、窓が上から下りてくるときのキコキコ音がほんのちょっぴり気になった^^;

ところでマーニーは私がロンドンで住んでいたフラットのオーナーに年齢も顔も体格もそっくりで(名前も同じクリス。この人モテるだろうなーというオーナーだった・・・)、さらにゴメスが今の会社の同僚ドイツ人に似てるため、時々妙な気分になり結構本気で困りました。。

9月13日マチネ&ソワレの感想

※インタビュー(chacott):マルセロ・ゴメス&クリストファー・マーニー
ザ・スワンザ・ストレンジャー役のマルセロ・ゴメス、王子役のクリストファー・マーニーにインタビュー

※追記:インタビュー(.fetale)

──マシューさんは、若いダンサーのメンタル面での教師でもあるのではないでしょうか。 王子の役は、若いダンサーにとっては精神的に苛酷な面もあるのではないかと思います。

マシュー・ボーン「そういう面もあるかも知れないね。面白いのは、王子役は成熟したダンサーほど深くはまってしまう役でもあるということなんだ。今日マルセロと一緒に踊る王子役のクリストファー・マーニーは今日が誕生日で、今月末に誕生日を迎えるマルセロと全くの同い年だけど、彼はすごく王子役に入れ込んでいるね…あまりに役に打ち込んでいるので、カーテンコールでも笑えないほど。クリスは7年ぶりに王子役をやって、さらに深いところまで到達したんだ」

この日のマーニーはカテコでしばらく笑顔が見えなくてきゅっと唇を食いしばってる感じだったのだけれど、こういうことだったのですね。ゴメスにしてもマーニーにしても、この作品は舞台の上だけじゃなく、彼らの人生の色々なものと重なる何かがあるのかもしれないな、と思います。

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