《灰色と黒のアレンジメント No.2:トーマス・カーライルの肖像》1872-73年
“音楽が音の詩であるように、絵画は視覚の詩である。
そして、主題は音や色彩のハーモニーとは何のかかわりもないのである”
(ジェームズ・マクニール・ホイッスラー)
日本では27年ぶり、世界でも20年ぶりというホイッスラーの回顧展。
私のテンションが最も上がる”19世紀ロンドン”で活躍した画家です(でもマサチューセッツ生まれのアメリカ人)。
彼が目指したものは、「芸術のための芸術」(唯美主義)。絵画で主題や物語を伝えることを否定し、色や形の調和といった純粋な視覚的効果を追求しました。「シンフォニー」や「アレンジメント」といった音楽用語を用いたタイトルにも、その信念が表れています。
今回の企画展では、昨年秋のオルセー美術館展で展示されていた「灰色と黒のアレンジメント No.1」に続く「灰色と黒のアレンジメント No.2:トーマス・カーライルの肖像」が特に印象的でした。カーライルの内面の孤独と優しさが滲み出ているような、そんな絵。画家自身もお気に入りの絵だったようです。ちょうど実物大くらいの大きさで、閉館間近にもう一度展示の部屋に戻ったら誰も人がいなくて、少し離れたところから見ると、今そこにカーライルが静かに座っているような錯覚を覚えました。以前チェルシーにあるカーライルの家に行ったことがあるので、その空気感を鮮明に思い出せたためかもしれません。この絵は漱石の「カーライル博物館」の扉絵(by橋口五葉)にも参考にされています。
そして「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」(こちらは以前テートでも見ています)を始めとするノクターンシリーズもやはり素晴らしかった。彼は浮世絵など日本美術からの影響を強く受けているためか、その絵は見ていてどこかほっとします。
またホイッスラーはチェルシーに住んでいたので、私の大好きなバタシー~チェルシーにかけての作品が多いのも嬉しかった。
彼はチェルシーで何度か居を変えていますが、親しく交際していたロセッティの家と同じCheyne Walkにある家が、一年ほど前にレントに出されたというニュースがありました。その家賃、実に週2,500ポンド(約46万円) この家には今回来日した「白のシンフォニー No.2:ホワイト・ガール」に描かれている暖炉も、そのまま残っているんですよ。
《青と銀色のノクターン》1872-78年
《白のシンフォニー No.3》1865-67年
《ライム・リジスの小さなバラ》1895年
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ホイッスラーがチェルシーで最初に住んだ家
101 Cheyne Walk, London
《Symphony in White no. 2》とその暖炉