風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

マリインスキー・バレエ団 『白鳥の湖』 @東京文化会館(12月5日)

2015-12-06 19:01:29 | バレエ




ウリヤーナ・ロパートキナはバレエ界の至宝などではありませんでした。

ロパ様は人類の至宝。

私、ロパートキナの白鳥を一度も、youtubeでも観たことがなかったのです。今夜初めて観たのです。
今まで少ないながらも色んな白鳥の湖を観てきたけれど、オデットが登場した瞬間に呼吸がとまって、涙が出そうになったのは初めてでした。
その前の場面で頭にティアラ(一回ピコンと光る)を載っけたプリンセス白鳥模型が左から右へすー・・・と移動していって、ニヤニヤ笑いが止まらなかったんですけど(いや、ああいう演出は歌舞伎みたいで大好きですよ笑)、直後にロパ様が上手から躍り出た瞬間に受けたあの衝撃をどう表現したらいいのでしょう。
静謐で高貴な、でも人の心を失っていない白鳥の王女。
ああ、自分のボキャブラリのなさが恨めしい。。。

彼女の踊りの前ではオペラグラスが不要になるのは今回も同じで。決して大袈裟な身体表現はしていないのに、顔の表情もほとんど変わらないのに(とはいえあの高貴な表情の素晴らしさといったら!)、なんて雄弁な体なのでしょう。オデットがチャイコフスキーの旋律に溶け込んで、あるいはチャイコフスキーの旋律がオデットに溶け込んで、音楽とロパ様の体の動きの全てが“この作品の心”を表していました。なんという踊りでしょう。この夜のオケの調子は、間違っても良いとは言い難いものだったのですよ。本当にあの27日と同じオケか?と思われる不安定さで、ズッコケたくなることも幾たびか。にもかかわらず、これほどの美しさを舞台上に表出させるとは。オケはロパ様とチャイコフスキーに感謝すべき。

二幕の黒鳥も素晴らしかったです。ネットの感想では黒鳥に関しては辛口が多いようですが、私は今まで観た中で一番好みな黒鳥でした。この夜のロパ様、黒鳥のグランフェッテのゆっくりさと足下を一瞬フラつかせたのが1~2か所あった以外は技術的にも完璧だったように私には見えたのですけれど(グランフェッテは愛の伝説でもゆっくりであった)、皆さま厳しいですねぇ^_^;  とはいえ黒鳥が本当に踊れなくなったらもう白鳥の湖全幕は踊れませんから、もしかしたらこれが最後の白鳥全幕になるかも、という可能性はやはり私から見ても否定はできませんけれど・・・・・。私は、技術の欠陥を演技で押し切るタイプのアーティストは好きではありません。ダンサーにとって技術は全てではないとしても基本だと思っています。その上で、この夜の彼女の黒鳥は素晴らしかった。スポーツ的なグランフェッテは決して黒鳥を表現するために重要な要素ではなかったのだと(もちろん出来るに越したことはないでしょうが)気付かせてくれた、至高の芸術が、技術が彼女の黒鳥にはあった、ように私には感じられました。
さらには黒鳥の解釈。一般に黒鳥ってキャラ立ちする演技をする場合が多いじゃないですか。あれ、私はあまり好きじゃないのです。白鳥の湖ってオデット×王子×ロットバルトの三角形が基本の構図だと思うのですが、あまりにオディールが自分の意志で動いているように見えてしまうと、ロットバルトの迫力と存在感が薄れてしまって(単なるオディールパパにしか見えなくなって)、四角形に見えてしまうのです。そもそもオディールって二幕にしか登場しない役ですし。一幕も三幕もクライマックスを踊るのは三人です。なのでオディールはあくまでロットバルトの指示の下に動いている娘という感じが私は好みなのです。それにあまりにオディールがイケイケだと、オデットとの違いが見抜けない王子が馬鹿に見えますし。オディールに騙される王子がこれほど馬鹿に見えなかったのは今夜が初めてでした。
というわけで、あくまで高貴な品を保ちつつ、オデットとの違いをはっきりと演じ分けたロパ様。ブラボーーーーでございました。

三幕の弱ったオデットのぐったりと力の抜けた体(なのに完璧な美しさ!)、目が覚めてロットバルトが倒れているのに気付いたときの可愛らしさ、王子に寄り添う姿から胸が苦しくなるほど伝わってくる王子への愛。今でも瞼の裏に焼き付いて離れないロパートキナの姿がいくつもいくつもあります。愛の伝説でもそうでした。

カテコのロパ様の立派さ、存在感、女王の風格、内側から発光するような美しさ。「バレリーナ」というのはこういう人のことを言うのだなぁと感じました。延々と続くカテコに、気負わない、でもとても嬉しそうな表情をされていましたね(*^_^*) それを優しく見守るコルスンツェフも嬉しそうだった。コルスンツェフからもらったJAの白い花束(自分がもらった赤い花束はロットバルトとの三人のカテコのために床に置いていた)、なんの変哲もない花束なのに、白鳥姿のロパ様が持つとなんと可憐で美しいことでしょう。
あの客席の熱狂は決して「ロパ様お疲れ様!」の意味ではなかったと思う。今夜の白鳥の湖のパフォーマンスに感動した観客の心からの称賛だったと思います。

というわけで今夜もロパ様別格に代わりはなかったのですが、脇もみんな素晴らしかった!

ダニーラ・コルスンツェフのジークフリート。
夏のバレエフェスで観たときは彼のジークフリートが全く想像できなかったのですが、今日は登場の瞬間から、「おお!王子だ!」と思いました。背が高いから舞台映えしますねぇ。派手系な踊りではないけれど、育ちが良い品の良さがあって、素直で、誠実そうで、だけど馬鹿っぽくなくて、とても良い。なによりロパ様への愛情がしっかりと見えるから(ちゃんと純朴な初恋だった!)、一幕のPDDでオデットが王子に心を開いていく様子が温かくて 二人の間に見える愛に胸が苦しくなりました。ロパ様の白鳥があれほどまで輝いて見えたのは、このジークフリートあってこそだと思う。素晴らしいパートナーシップでした。
「ウリヤーナとも一緒にこの役を踊って19年になります。他のパートナーともたくさん踊りましたが、一番多く踊ったのはウリヤーナです。…踊りはパートナーとの接触が出来ているか出来ていないか、ということが重要なのです。私は彼女のことをよくわかっているんです。今日はこんな調子だから、あそこはああやるだろうな…とかね。踊りながら一体化しているので、テクニック的なことを意識することはありません」(終演後のインタビュー)

コンスタンチン・ズヴェレフのロットバルトも、迫力とキレのあるダイナミックな踊りが素敵でした。とても格好よかったから、オデット&王子も見たいのだけど、ロットバルトも見たくて、困ってしまった。このロットバルトのおかげで今夜の舞台が一回り大きくなったと思います。やっぱり悪役って大事ね。ロパ様へのサポートも危なげなく。オディールとこしょこしょ悪巧みする二人も可愛かった^^ 親子なのにトキメイテしまいました。

道化は、グリゴーリー・ポポフ。愛の伝説のときも道化を踊っていましたが、今回の方が好みでした。あちらはバヌーが苦悩しているシリアスな場面で踊るので、どこか不気味さというか影のようなものも必要だと思うのですが(この人はそういう感じは少ないように思う)、こちらは軽やかで愛嬌のある可愛らしささえ感じさせる素敵な道化でした。素晴らしかった。この道化のおかげで舞台が一層活き活きしたものになっていたと思います。

王子の三人の友人達も、華やかで素敵でした。
特にフィリップ・スチョーピン、上手だった。もっともっと踊りを見たいって感じました。今回の来日ではロミオを踊っていたんですね。良かったろうなぁ。バレエ団の紹介写真より生の方がずっとイケメン。ナデージダ・バトーエワも美人で、踊りも華やかで楽しめました。

マリインスキーは、三年前のバヤでも、先日の愛の伝説でも、衣装やセットが微妙・・・と感じることが多いのですが(あれはあれで嫌いじゃないですが。愛の伝説のセットは好き)、この白鳥の湖のセット&衣装は私はとても好きでした。今まで観た白鳥の湖の中で一番好きかも。
一幕の庭でのパーティーで段々陽が暮れてきて、最後にカンテラを持って踊るところとか、すごく素敵だったなぁ
最後のハッピーエンドも、今日のキャストだと、とってもよかった。以前何かの動画で観たハッピーエンドの白鳥が微妙だったので、白鳥はずっとサッドエンド派だったのです。

オケは先程も書いたとおりこの夜は非常~~~に不安定でしたが(白鳥って演奏し慣れてるのではないのかいな・・・)、今夜も大音量は盛り上げてくれました。愛の伝説の不協和音系もよかったし、こういうオケでショスタコーヴィチとか聴いたら良いかもなぁ。ロミジュリも聴きたかった。三幕の最初にトランペットが席にいなくて「???」と思っていたら、いつの間にか上演中に着席していたり、相変わらずマイペースなロシアの楽団ではありましたが^^;。 カテコのオケに対する拍手の最中にさっさと帰っていくのも27日と一緒。客席からの拍手に送られて退場する慣例でもあるんかい。

客席にスメカロフがいましたね(関係者って大抵一番最後に客席に入ってくるからかえって目立つ)。ダークカラーのスーツ姿が素敵だったワ。

帰りの山手線ホームでは、可愛らしい女性ダンサーが二人。楽屋口でみんな彼女達からサインを貰っていたけど誰だったのかしら。プライベートのときにジロジロ見るのは悪いので、よく見なかったのですけれど。電車の乗り降りのマナーもよくて、好印象でした^^

これが今年のバレエの鑑賞納め!来年はハンブルクの真夏の夜の夢をとりあえず取ってあります(コジョカルじゃない方の日。リアブコとアッツォーニが観たかったので、苦渋の選択・・・)。あと、ロイヤルのロミジュリが観たいな。バレエフェスのマックレーのロミオ、とても良かったもの。

今年の本当の観劇納めは、歌舞伎座です。玉様の関扉は絶っっっ対に観るのだ!

※ところで、終演後の客で溢れた東京文化会館のロビーで「もう今日の黒鳥を観てロパの全幕は二度とないと思ったわ~。これからは瀕死の白鳥とかガラとかをちょろっと踊るくらいがいいよ!」「私もそう思った。もう全幕はないね!」と大きな声で話してる中年のお友達同士のような女性達がいましたけど、感動してる客も沢山いるのだから、もう少し小さな声で話すとか、せめて文化会館を出た後で思う存分話すとか、自身のブログやツイッターで書きまくるとか、そういう心遣いはないものですかねぇ。。。バレエを愛する人ならば。バレエって休憩時間のトイレの列にもこういう方達がほぼ毎回いるので憂鬱です。。。トイレだと聞きたくなくても列を離れられないし。。。


Uliana Lopatkina Odette Variation - Swan Lake

ロパ様の白鳥、一生忘れません。

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